最新記事

中国

共産革命から経済大国へ──江沢民と中国の軌跡

2022年12月7日(水)15時27分
ビクター・シー (米カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授)

2002年まで続いた江沢民体制下では、党幹部の大粛清はなかった。1997年に鄧小平が死去したときも、党幹部はほとんど動揺することなく統治を続けた。

この相対的な安定は幹部の腐敗を招いたが、新興の民間企業や外国投資は国内の激動に影響されずに成長・発展できた。江は政治的な謀略もさることながら、集団指導体制を確立して権限の分散を進め、党の団結と、過去に例のない政治的平穏を維持した。

異質な世界に対する関心

90年代後半には、WTO加盟をめぐる交渉が過熱するなか、江は自身最大の後援勢力である国有企業部門に対して、輸出を大幅に増やせるのだから関税の大幅引き下げを受け入れるよう、強く迫った。

しかし、そもそも国有企業には国際的な競争力がなく、輸出で稼げるのは外資系企業や新興の民間企業だけだった。それでも江は国有企業に対する補助金の増額で押し切り、2001年に念願のWTO加盟を果たした。

WTO加盟によって国有企業は苦しくなったが、中国経済全体が大いに潤ったのは間違いない。00年から19年末までの間に、中国の輸出額は2500億ドルから2兆5000億ドルへと10倍に増えた。

1人当たりの可処分所得も同じ期間に7倍以上増加し、何億もの国民、とりわけ都市住民の生活が改善された。

今にして思えば、香港の若い女性記者を叱責した2000年のエピソードも、まんざら捨てたものではない。ある意味、それは統治者・江沢民の開放性と自信を物語っているからだ。香港は既に中国の統治下に戻っていたが、彼は香港メディアの自由を尊重し、堂々と記者会見を開き、想定外の質問にも即興で答えた。この女性記者の発言には腹を立てたが、それ以上の処分や迫害はしなかった。

国内における組織化された反体制運動に対しては強権を発動したが、個々の知識人が政府の政策を批判することにはおおむね寛大だった。

外国の文化に対する造詣も深く、外国からの賓客を招いたときは得意のピアノで西洋の楽曲を弾いたものだ。リンカーン米大統領のゲティスバーグ演説を暗記していて、その一節を晩餐会などで披露することもあった。わざとらしいなどと、当時は揶揄されたものだが、西洋文化や異質な世界に対する彼の関心は本物だった。そうした真摯な姿勢は、残念ながら今の中国指導部には見られない。

江沢民時代の中国が自由で民主的だったとは言うまい。しかし今の時代に比べたら、昔はよかったと思う人が多いに違いない。指導者が開放的で、メディアや社会からの批判もある程度まで受け入れていた時代だから。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中東紛争4日目、攻撃広がり犠牲増加 想定以上に作戦

ビジネス

ニデック第三者委「永守氏が一部不正容認」、業績圧力

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、2月1.9%に加速 懸念される

ビジネス

中東紛争でインフレ加速も、世界経済への打撃は軽微=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中