最新記事

宗教2世

伝道に連れ回され、教義のために学校で孤立 自己決定権を蔑ろにされる宗教2世の実情

2022年12月2日(金)11時15分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

宗教参加の全体をR指定にすることは困難でも、部分的な行為についてはどうだろう。例えば、酒やタバコは年齢によって規制されている。同様に「危険を伴う修行」などの行為については年齢制限を設けることも可能ではないだろうか。

酒・タバコがそうであるように、宗教行事によっては、本人が望んだとしても、不健康になりうる行為は規制されるだけの正当性がある。「毎日お酒を1杯飲むこと」という教義があったとしても、子どもには言語道断だ。では、現実に規制を議論すべきはどのような行為か。調査に寄せられた具体的な記述を見てみよう。

(※具体的な記述が含まれるので、ストレスやフラッシュバックなどに注意してください。なお、コメントは原文のまま掲載しています)


●物心ついたときから、ゴールデンウィークは八十八ケ所巡りと滝行。他の子みたいにレジャーなど楽しい連休を過ごしたかったなと思っていた。

●説法会、集中修行、イニシエーション、奉仕活動、休みの日教団に通い修行や教学。過酷な修行には出たくなかった。毎週教団に通いたくなかった。行かないでサボると、あなたのためなのに何で来なかったのかと親に怒鳴られる。出家修行者にも問い詰められる。

●寒修行や団体参拝等が苦痛だった。

●意に反して裸足で焚き火の上を渡らされたり、早朝に起こされ冷水を浴びせられたりした。理不尽であるが、反抗すると親の機嫌が悪くなる、時には激昂するため、嫌々従った。

●「参加しないのは不信心だ、家がダメになる」と言って、火渡りや登山、滝行、神社への参拝などに行事に連れて行かれた。時には学校行事や友だちとの予定をキャンセルするように言われた。

寒中行事、滝行、火渡り、長時間の拘束や移動。こうした心身ともに消耗させるような「修行」については年齢制限が必要となるのではないか。

なお、「規制」の議論について確認しておくと、「法規制」以外にも「自主規制」という選択肢も存在する。各団体は、宗教集団健全化のために、子どもの権利や健康を脅かす行為についての点検や安全ガイドライン作りも行ってほしい。

ただし、エホバの証人の「鞭打ち」経験率の高さなどを含め、虐待行為そのものには法的対処が必要である。また、虐待問題の改善や安全配慮を拒むような団体については、カルト規制を視野に入れた議論も避けられないだろう。

教団に求められる「安全配慮義務」と「子どもの自己決定権の尊重」

年齢制限の他に可能なのは安全配慮義務である。例えば、幼い子どもを裸足で火の上を歩かせるような行為や、寒く冷たい滝にうたせるような行為は虐待と考えられるが、「火から離れた別のルートを歩いてもらう」「適温のシャワーで代替する」などの配慮があれば危険性は下がるはずだ。

いま、火災対策や予算削減のために「LEDろうそく」「キャンドルライト」を導入する寺院も少なくない。宗教法人であっても消防ルールや安全管理義務を守らなくてはならないように、子どもの健康や権利も保障しなくてはならない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 8
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 9
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 10
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中