最新記事

宗教2世

「病院に行かせてくれない」「祈れば治ると言われる」──宗教2世が体験した医療ネグレクトの数々

2022年12月9日(金)11時50分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

(写真はイメージです) Lemon_tm-iStock

<荻上チキ氏が代表を務める「社会調査支援機構チキラボ」が宗教2世1131名を対象に行った実態調査には、教義のために医療行為を受けられなかったり、怪我や病気を信仰不足のせいにされるといった体験談が数多く寄せられた>

国会では今、宗教的献金についての「被害者救済法」が、詰めの作業に入っている。「寄付の勧誘に際して困惑させる行為」の中には、勧誘時に恐怖心を植え付けたことまで遡れるという政府解釈が示された点は重要だ。他方で、不当な寄付の防止に対し、「禁止規定」にしたい野党案と、「配慮義務」にとどめたい与党案とには、溝も感じられた。

救済法自体は、やや突貫工事的な側面がある。他の法案についてもそうだが、永田町では暗に、「今年作った法律は、来年すぐさま改正することはできない」といった前提が共有されてしまっている。だが、このような前提は忘れ、法案作成から間もなくであっても、問題が指摘されている点についてはすぐさま、次期国会でも「改正論議」を行うような動きがあってもいいと思う。

また、救済法はあくまで、寄付行為の一部について議論されているものだ。宗教的虐待や不当勧誘、退会の阻止など、より広い論点がそのまま残っており、それもまた次期国会での大きな宿題である。

正当化される医療ネグレクト

niseibookthumbnail_obi.jpgさて、宗教2世に限らず、医療カルトを含めた2世が経験する虐待行為の一つに、医療ネグレクトがある。エホバの証人の「輸血拒否」は有名だが、医療ネグレクトはエホバのケースに限らない。

筆者が代表を務める「社会調査支援機構チキラボ」では、宗教2世の実態調査を行っており、1131人の有効回答を得た。その調査には、総計50万字ほどの自由記述が寄せられたが、目を通していると、医療に関わる記述が多くあることに気付かされる。

まず目立ったのは、医療行為を受けさせてもらえないという、ネグレクト(対処放棄)の事例だ。いくつかの具体例を紹介したい。
(※具体的な記述が含まれるので、ストレスやフラッシュバックなどに注意してください。なお、コメントは原文のまま掲載しています)


●教団の本部に連れて行かれ、信者と交流させられた。手かざしによる健康改善を教義としている宗教だった。

●医療ネグレクトに遭っていた。酷いアトピー性皮膚炎には、薬を塗ってもらえず、信仰で販売している水(ただの水道水を高値で販売しているもの)を塗られた。風邪を引いても病院に連れて行ってもらえなかった。

●アトピー性皮膚炎を患っていたが、適切な治療を受ける機会を得られなかった。連れていかれたのも数回民間療法(漢方)のみしか記憶をしていない。

●全身に広がるアトピー性皮膚炎を手かざしで治すと言われたがまったく治らず、苦しい思いをした。薬が欲しいと言うと、薬がいかに悪いかを母から説教された。ただ、母は宗教以外にも多種多様なスピリチュアルに傾倒しており、原因がどこにあるのかは判然としない。

●辛かったこととして「医療の制限」があった。病気になっても病院に連れていってもらえなくて辛かった。民間療法も、痛くて辛いものが多かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中