最新記事

カタールW杯

代表不在でも、奇妙な存在感を放つ中国──スポーツ外交とパンダ外交の先には?

China AWOL at World Cup

2022年11月28日(月)13時24分
ジョナサン・ホワイト

W杯優勝が悲願だけど

「15年以降に見られたような政治的な優先はなくなった。習近平(シー・チンピン)国家主席はサッカー好きで知られているが、少なくとも私は、彼がサッカーに言及するのを聞いた覚えがない」と、ドライヤーは言う。

クラブは地方政府や大手不動産会社、国有企業からの支援が「突然なくなった。サッカーを支援する政治的メリットがなくなったからだ」。

状況を悪化させているのは、CSLの試合が20年以降、基本的にほぼ無観客で行われていることだ。

短縮されたシーズンを完走するために、チームや関係者は感染対策のバブルに閉じ込められている。こうした現状を理由に退団する選手もいて、国際プロサッカー選手協会(FIFPro)は中国のクラブと契約しないように警告している。

「中国のサッカーは消滅寸前だ。死んだとは言わないが、深い冬眠状態であるのは間違いない」と、ウィルソンは言う。

「ホームスタジアムにファンがいないまま3シーズンを生き延び、サッカー界やリーグの発展にも大きな損害を与えないのは、世界のどこでもあり得ない」

一方で、サッカー以外のスポーツを通じた中国のソフトパワーの追求は急速に進んでいる。昨年の夏季五輪東京大会には08年の北京大会に次ぐ規模の選手団を派遣し、獲得メダルの総数はアメリカに次いで2位だった。今年の冬季大会は北京で開催された。

中国は18年に、25年までに8130億ドル規模のスポーツ産業を構築すると宣言。19年9月に国務院(内閣に相当)は「スポーツ強国建設綱要」を発表し、50年までの具体的な目標を示した。サッカーは引き続きその中心にいる。

国家スポーツ総局の李建民(リー・チェンミン)副局長は当時、次のように語っている。

「サッカーのような人気のあるビッグイベントの進展は、一般市民だけでなく国家の最高指導部にとっても最大の関心事であり、スポーツ強国を築くためにこれらのイベントのレベルを向上させなければならない」

「W杯を開催し、いつか優勝することは、世界をリードするスポーツ強国の建設というわれわれの野心に沿うものだ」

ただし、まずはW杯の予選を勝ち抜かなければならない。アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共催となる26年大会は、アジアの出場枠が増える。予選突破を目指して「軌道修正をするために、やるべきことはたくさんある」と、ドライヤーは言う。

「中国はアジアのトップチームの1つになれるはずだ。今はまだ、はるか遠いところにいるが」

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBG、オープンAIへの出資年内完了に奔走 投資売

ワールド

ロシア軍、ウクライナの村から民間人50人連行 スム

ビジネス

カナダ小売売上高、10月は前月比0.2%減 11月

ワールド

米原油先物が上昇、週末に米がベネズエラ沖で石油タン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中