最新記事

カタールW杯

W杯開催カタールの「北朝鮮コネクション」

Qatari-Kim Connection

2022年11月21日(月)18時15分
アンソニー・ルジェロ(民主主義防衛財団上級研究員)、グレッグ・スカルラティウ(北朝鮮人権委員会事務総長)
カタール

カタールはW杯に向けて7つの競技場を新設した KAI PFAFFENBACH-REUTERS

<競技場などの建設現場での人権侵害が問題視されているが、そこには北朝鮮の労働者も含まれる。北朝鮮にとっては制裁回避と外貨獲得の手段。カタールにとっては使い勝手のいい存在だった>

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会が11月20日に開幕した。世界各地から観戦に訪れる大勢の人はおそらく知らないだろうが、彼らがイベントを楽しむ超現代的な競技場や豪華ホテルは、北朝鮮の労働者を駆り出して建設されたものだ。

4年に1度開催されるサッカー界最大の祭典の裏には、建設現場での劣悪な生活・労働環境と政府による搾取という醜い現実が潜んでいる。

北朝鮮にとって、国外への労働者派遣は国際社会の制裁を回避し、外貨を獲得する格好の手段だ。一方でカタールにとっては、北朝鮮の労働者は使い勝手のいい存在だった。

カタールがW杯開催地に決定したのは、賄賂などの腐敗行為の結果だと言われている。開催準備期間中、同国の印象はさらに悪化した。特に問題視されたのが、独特の労働契約制度「カファラ」だ。

現代の奴隷制とされるカファラの下では、雇用主が出稼ぎ労働者に対してほぼ絶対的な権限を持つ。近年、国際社会の圧力を受けて改革されたが、虐待・搾取横行の下地になっている現実は変わらない。

カタールの国際労働基準無視に乗じた国の1つが北朝鮮だ。英紙ガーディアンは2014年、カタールの首都ドーハ近郊のルサイルの建設現場4カ所で、北朝鮮人が働いていると報じた。同地に誕生したルサイル・スタジアムは、今回のW杯の決勝戦会場だ。

カタール政府が国連安全保障理事会に提出した報告書によれば、2016年1月時点で同国に在留する北朝鮮人労働者は約2500人。その数は2019年3月までに70人に減少した。

労働者の国外派遣は北朝鮮にとって、国連安保理決議で禁止された核・ミサイル開発の資金を稼ぎ、国内エリート層の懐柔に必要な外国製の贅沢品を賄う手段だ。北朝鮮人の出稼ぎ労働者の給与は政府管理下の口座に振り込まれる仕組みで、本人に支払われるのはそのごく一部だという。

「北朝鮮政府は国外労働者の賃金の最大90%を徴収し、それによる年間収入は数億ドルに上る」と、バイデン米政権は今年5月に発表した報告書で指摘している。

中国では最大10万人が

ガーディアン紙による告発があった2014年当時、カタール政府は国内で北朝鮮人労働者約2800人が働いていると認めた。その一方で「記録上、賃金や待遇に関する苦情は皆無だ」と主張している。

北朝鮮の労働者の搾取は、かなり前からはびこっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比4.

ビジネス

MSとエヌビディア、アンソロピックに最大計150億

ワールド

トランプ政権の移民処遇は「極めて無礼」、ローマ教皇

ワールド

スペイン、9.4億ドルのウクライナ支援表明 ゼレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中