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ウクライナ戦争

苦境プーチンの数少ない味方...イランはなぜ「かつての仇敵」ロシアを助けるのか?

Iran Is Now at War With Ukraine

2022年11月9日(水)18時07分
ジョン・ハーディ、ベーナム・ベン・タレブー(ともに米保守系シンクタンク「民主主義防衛財団」)
イラン製ドローン

攻撃に使われたイラン製の「シャヘド136」とみられる無人機の残骸(ウクライナ北東部のハルキウ) VITALII HNIDYIーREUTERS

<ロシアにドローンを提供し、軍事顧問を送ってウクライナ攻撃に加担するイラン。協力関係の陰に秘められた意外で緻密な地政学的野心>

イランがヨーロッパ大陸での大規模な戦争に、初めて関与している。舞台は、こともあろうにウクライナだ。

いまウクライナのロシア占領地帯には(もしかするとベラルーシにも)イランの軍事顧問団がいる。自国の最高指導部に直結するイラン革命防衛隊のメンバーとみられる。

彼らは、ロシア軍がイラン製の自爆型無人機(ドローン)でウクライナの都市やインフラを攻撃するのを支援している。イスラエルのメディアがウクライナ当局者の話として伝えたところでは、ロシアの拠点を狙ったウクライナ軍の攻撃によって、これまでに10人のイラン人が死亡した。

イランは大きな賭けに出ている。ロシアに対して数千機の無人機を提供する可能性があるだけでなく、ロシア軍の弾道ミサイルが枯渇しつつあるのを補うために2種類のイラン製弾道ミサイルを初めて供与しようとしている。

イランの軍事支援は、ロシアのウクライナ侵攻作戦にとって重要なものになっているが、地政学的な影響はさらに大きい。ロシアの帝国主義的な野心を支援することで、イランは中東での自らの影響力を拡大しようとしている。

イランはロシアとの武器取引を進める一方で、ウクライナの戦場で得られた教訓を生かして自国製の無人機やミサイルの性能を高めようとするだろう。同時に、ウクライナの危機をあおることで欧米諸国の目を中東からそらし、その間に地域での覇権を追求する狙いがありそうだ。だが逆に、こうした動きによって欧米諸国がイランへの締め付けを強める可能性もある。

苦戦ロシアにとっては心強い味方

侵攻開始から8カ月が過ぎて苦戦を続けるロシアにとって、イランの支援は心強い。イランは1980年代のイラン・イラク戦争以降、ミサイルと無人機の開発に力を入れ、ロシアにはさまざまなタイプの無人機を大量に供与していると伝えられる。

その1つがシャヘド136(ロシア名はゲラニ2)。上空から標的に向かって突っ込む自爆型の「カミカゼ・ドローン」だ。ロシア軍はシャヘド136を前線に近い目標の攻撃に使っているほか、在庫数が乏しくなってきたミサイルを補うために活用している。

ウクライナのある議員が10月半ばに語ったところでは、シャヘド136を使ったロシア軍の攻撃でウクライナの電力インフラの約40%が破壊され、原発以外の発電能力の半分が損害を受けた。ウクライナ国内では大規模な停電と計画停電が続いている。冬が近づくなか、ロシアはこうした作戦によってウクライナ側の戦意喪失を狙っているとみられている。

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