最新記事

米社会

「衝撃的......」米国の妊産婦の死亡の原因とは?

2022年11月2日(水)19時00分
松岡由希子

「妊娠関連死亡の80%以上は予防可能であった」。が...... globalmoments-iStock

<妊産婦の死亡の原因は、産科学的に主因とされる高血圧性疾患や出血、敗血症といった妊娠合併症だけではなかった......>

米国では、3143郡のうち3分の1以上で、産科医療を提供する医療施設もしくは産科医がいない「マタニティデザート(産科の砂漠)」になっている。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2017年から2019年までのデータに基づくレポートで「妊娠関連死亡の80%以上は予防可能であった」との結論を示している。

妊産婦の死亡の原因は、産科学的に主因とされる高血圧性疾患や出血、敗血症といった妊娠合併症だけではない。

「米国の妊産婦は産科学的な原因よりも殺人によって死亡するほうが多い」

米テュレーン大学の研究チームは、医学雑誌「オブステトリクス&ギネコロジー」(2021年11月号)で「米国の妊産婦は産科学的な原因よりも殺人によって死亡するほうが多い」という衝撃的な研究成果を発表し、これまで見過ごされてきた深刻な問題を改めて浮き彫りにした。

この研究では、国立衛生統計センター(NCHS)の2018年と2019年のデータを分析。妊娠中または妊娠終了後42日以内の殺人による死亡は、妊産婦の主な死因すべてを2倍以上も上回った。妊娠中または出産後1年以内の女性10万人あたりの殺人件数は3.62件で、それ以外の妊娠可能年齢の女性の殺人件数に比べて16%高い。また、その多くは近親者暴力(親密なパートナーによる暴力:IPV)によるものだという。

近親者暴力は世界中にまん延している。世界保健機関(WHO)によると、15歳以上の女性の3人に1人は生涯で少なくとも一度、身体的、性的、心理的虐待をパートナーから受けている。とりわけ米国は、欧州諸国や豪州など、他の高所得国に比べて、近親者暴力が多い傾向にある。

女性に対する男性の暴力の防止が、女性と胎児の命を救う

ハーバード公衆衛生大学院のカレスタン・ケーネン教授とレベッカ・ローン研究員は、2022年10月19日付の医学雑誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」のエディトリアルで、「銃による暴力を含めた女性に対する男性の暴力の防止が、米国の多くの女性とその胎児の命を救うことにつながる」と説き、「妊娠中の殺人の危険因子を特定する研究は、その防止にとって重要だ」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

韓国、26年のEV購入補助金を20%増額 トランプ

ワールド

欧州議会、40年までの温室ガス排出量90%削減目指

ビジネス

中国京東集団、第3四半期は予想上回る増収 政府補助

ビジネス

中国不動産大手の碧桂園、債務再編で債券130億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中