最新記事

宗教

「ベルトでお尻を叩かれた」「大学進学は罪」──宗教2世1131人に聞く宗教的虐待の実態

2022年11月22日(火)11時00分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

ネグレクト推奨行為をどうするか

さて、「虐待」という行為は、暴力などの「身体的虐待」に限らない。心理的虐待、性的虐待、経済的虐待、そしてネグレクトなど、いくつかの種類がある。

教団ごとの比較をした場合、「エホバの証人」の2世回答者は、他の宗教団体の回答者と比べて、最終学歴が低くなる傾向があった。自由記述を読むと、多くのエホバ2世回答者が、「進学や就職をするのではなく、宗教活動に専念すること」を推奨されてきたのが分かる。


●高卒以上の学歴は不要、フルタイムの仕事に就くべきではない(と言われた)。

●ハルマゲドンが近いのに大学に行ったり正社員で働いている場合じゃない。出来るだけ奉仕に時間をさけといわれた。

●高校を卒業すると大学に進学するのが罪のような言われ方だった パートや契約社員などして実家暮らしで伝道活動に時間を割きなさいの考え方だった。

●高等教育、特に大学進学に関しては教義によって否定されていた。また布教を第一にした生活設計をするよう組織から指導されていたので、フルタイムの正社員で働くことは信仰心が無いこと、とみなされた。基本的に非正規、パート、アルバイトが推奨されていた。(布教に一番時間が割けるので)

宗教的虐待について議論する場合、教育ネグレクトや経済的虐待を含め、幅広い議論が必要となる。そして、これもやはり、「集団的なネグレクト推奨行為」についても、法的な、あるいは社会的な対応を考えることが必要だろう。

ただこのとき、必ず出てくるのが「線引きが難しい」「グレーゾーンはどうするのか」という指摘だ。「親に無理やり習い事をさせられるのも虐待か?」「大学に行かずに働いてほしい、と頼むのも虐待か」といった具合に。

線引きは難しい。それはその通りである。ただそれは、この問題に限ったことではない。そして、線引きが難しくても、できることが二つある。この二つは、他の立法においてもとられてきた手段である。

一つは、「明らかにアウトなものから手を付けること」だ。宗教的理由であろうが、「鞭打ち」などはアウト。未成年に、火渡りや滝行などを強要することもアウト。子供の小遣いや財産を、勝手に献金するような行為はアウト。こうした、「親の信仰の自由はあれど、社会通念上、児童福祉を著しく抑圧しているとみなされる行為」から線引きをしていくことはできるはずだ。

「線引きは難しい」と言われるとき、その多くは、いきなり「信仰の自由」と「子供の福祉」とのセンターラインを探そうとしてしまっている。それは到底不可能である。だからこそ、「ここからは明らかにアウト」という線をまずは明言すべきとなる。その後さらに、線引きのあり方を、不断に問い直すことが必要となる。

もう一つは、「規制以外の社会的オプションを複数用意すること」だ。例えば子どもが不服に思うような行為であったとしても、一般的には「虐待」とされにくいような行為はたくさんある。そのような境界事案であっても、なにも社会的に介入できないというわけではない。

例えば、子どもの相談に乗り、親と調整するサポートをしてくれる「子どもコミッショナー」制度。子どもが自分の意思で独立し、学費を確保できるような自立支援制度や奨学金制度。家庭以外の「第3の場所」にアクセスしやすいような地域社会づくり。さまざまなオプションによって、子どもの生存をサポートすることもできるだろう。

他の虐待問題同様、宗教的虐待もまた、「これさえあればゼロになる」という妙案はない。被害の実態を共有したうえで、ひとつひとつ、一歩一歩、対策を進めていくこと。その歩みを止めないためにも、実態調査などで明らかとなった「2世の声」を、広く共有することが重要となるであろう。

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ 経済

ワールド

香港、火災調査で独立委設置へ 死者156人・30人

ビジネス

アングル:日銀「地ならし」で国債市場不安定化、入札

ワールド

EXCLUSIVE-中国のレアアース輸出、新規ライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中