最新記事

ロシア

「ウクライナは情報操作のため『戦争被害者を演じる役者』を使った」説は本当か

Fact Check: Russia Claims Injured Ukrainian Mom in Photo Is Crisis Actor

2022年10月2日(日)15時55分
トム・ノートン

クリロの名前(オレナ)を「ヘレナ」と呼んでいる記事もあるが、これは単なる表記上の慣習だ。オレナは、ヘレナのウクライナ語バージョンだ。

重要なのは、2枚の写真が同じ日に撮影されたものであり、その事実は変わらないということだ。2枚の写真の違いは、けがの手当てに使われている包帯などが違うことくらいだ。

2枚目の写真を(サムネイルとして)使っている問題の動画は、ユーチューブ・チャンネル兼ポッドキャスト「Breaking Points with Krystal and Saagar」に投稿されたものだ。この番組は、クリスタル・ボールとサーガル・エンジェティが提供している。ただ動画に登場しないこの写真が、サムネイルに使われている理由は不明だ。

物語のテーマを伝えるために使った

本誌がコメントを求めたところ、エンジェティから次のような回答があった。「この写真は、ウクライナの人々が苦しんでいることを伝えるため、私たちのグラフィックデザインチームが選んだものだ。この女性が、何らかの形で今回の話題と直接関係していると伝える意図はなかった」

「物語のテーマを伝えるためにストック写真を使うことは、現場で撮影された写真を入手していない、文字通り、地球上のすべての報道機関にとって、標準的なやり方だ。私が見る限り、ニューズウィークも例外ではない」

住民投票が行われた地域に、ハルキウ州チュグエフは含まれておらず、写真の女性は動画に登場していない。そのため、このサムネイルは誤解を招くと言ってもよいだろう。

しかし、ユーチューブの番組編集者が、誤解を招く、あるいは文脈を無視したストック写真を使ったからといって、ロシア当局者がほのめかしているように、写真の女性が被害者を演じているなどといったことを示唆しているとは言えない。

この動画は、クリロが住民投票中に負傷したとは示していないし、それどころかクリロには全く言及していない。さらに3月の報道では、これらの写真が撮影されてから1カ月もたたないうちに、クリロはウクライナを離れ、娘のカテリーナとともにポーランド南部に避難したと伝えられている。

このように古い写真やストック写真を使用することで、誤解を招く恐れがあるのは事実だ。しかし、メディアの世界では珍しい慣習ではない。
(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中