最新記事

日本

「安倍晋三が日本のナショナリズム台頭の要因」は間違い──日本政治研究者J・リンド

ABE AND NATIONALISM

2022年9月30日(金)20時40分
キャサリン・パッツ(ディプロマット誌副編集長)

確かに、そういう面はあるだろう。しかし中国は、その規模を考えると史上最強の超大国になる可能性を秘めている。

彼らは日本のすぐ隣にいる。反日を掲げるナショナリズムをあおっている。世界最大の海軍を築いている。台湾への武力行使の可能性をちらつかせている──日本にとって、まさに最大の脅威だ。

ここで強調したいのは、その中国の台頭を受けても、日本の姿勢がほとんど変わっていないのは驚きだということだ。

北朝鮮が核でアメリカを攻撃する能力を手にすれば、日本の安全保障環境は極めて切迫したものになる。

では、国を取り巻く安全保障環境が大きく変わったのに、日本のナショナル・アイデンティティーがあまり変わっていないのはなぜか。

日本の反軍国主義的な規範に注目するアナリストは、世論の抑止効果と第2次大戦のレガシーが理由だと指摘するだろう。確かにそれは、理由の1つだ。

他のアナリストは、日米同盟を要因に挙げるだろう。日本は今も、中国とのパワーバランスを保つ上でアメリカに大きな役割を期待しているのだと。

以上のことをまとめると、繰り返しになるが私にとって驚きなのは、日本で防衛をめぐる議論が活発化していないことだ。

安倍はまさにそれをやろうとしていたと思うし、実際に彼は目に見える変化をもたらした。しかし、彼がナショナリズムをあおろうとしていたとは思わない。日本が別の指導者の下で、より極端なナショナリズムに移行していくとも思わない。

――ナショナリズムの高まりが見られるのは日本だけではない。日本と近隣諸国が衝突した場合、双方の国民の間でのナショナリズムの高まりはどう影響するだろうか。

既に述べたように、私は日本でナショナリズムが高まっているとは思わない。韓国や中国でも、ナショナリズムが高まっているという証拠は見当たらない。

中国にも韓国にも、日本に苦しめられた記憶や、それに対する恨みや怒りの感情がある。指導者たちは自分の政策目標にとって都合がいいときだけ、国民のそんな感情を利用する。

私は国民に主体性がないと言っているわけではない。国民の感情がおかしいと言っているわけでもない。日本が過去にしたことは、確かに重大なことだったと思う。しかし戦争の記憶を前面に出すかどうかという点で、指導者の判断は重要な役割を果たす。

特に中国と韓国では、指導者が反日感情をあおっている。戦時中の日本の残虐行為を強調する中国の「愛国主義教育」は、まさにそうだ。

しかしその一方で、両国の指導者が日本との関係改善をメリットと見なす場合もある。これらの国には反日感情がある一方、日本との間には友好的なテーマやイベントも抱えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ第2の都市ハルキウに攻撃、広範囲に停電 

ビジネス

ECB、ロシアの軍事的ショックに備える必要=リトア

ビジネス

中国の香港経由の金輸入、12月は前月比24%減 価

ビジネス

欧州自動車販売、12月7.6%増 EVが初めてガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 9
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中