最新記事

日本

「安倍晋三が日本のナショナリズム台頭の要因」は間違い──日本政治研究者J・リンド

ABE AND NATIONALISM

2022年9月30日(金)20時40分
キャサリン・パッツ(ディプロマット誌副編集長)

――メディアには「日本ではナショナリズムが高まっており、安倍がその大きな要因だ」という論調が目立つ。右派のナショナリズムの高まりが追い風となって安倍は首相になったのか、それとも安倍が首相になったことで右派のナショナリズムが高まったのか。

日本でナショナリズムが台頭しているという主張は以前からあるが、これは不正確だ。

メディアは80年代からこうした「あおりネタ」を書いてきた。日本の防衛予算がほんの少し増えるたびにこういう見出しが躍るが、むしろ注目すべきなのは「大国になり得る力を持つこの国が、防衛費にこれほどわずかしか割いていないのはなぜなのか」という点だ。

私は植木千可子(早稲田大学教授)との共同研究で、日本人のナショナル・アイデンティティーを時間と地域によって測定・比較した。そこから分かったのは、日本人には強い愛国心があり、それが時間をかけて安定していったということだ。

極端なナショナリズムやその高揚を示す証拠はなかった。日本のナショナリズムは高まっていないのだから、ナショナリズムのおかげで安倍が首相になったわけではない。

ナショナリズムの高揚は起きていないのだが、日本のナショナル・アイデンティティーには興味深い変化がゆっくりと起きている。かつての日本は過去の過ちを清算しようとしなかったが、90年代以降、戦時中に日本が被害を与えた人々との歴史的な和解を多くの人が提唱するようになった。

その結果、日本は実に多くの謝罪を行った。だがそれ以降の日本では穏健派と保守派にかかわらず、「日本の融和政策はおおむね無視され、特に韓国がさらに謝罪を要求してきている」という見方が強くなった。

このため「謝罪疲れ」が起き、左派が弱体化し、右派が勢いを増した。

こうした状況を見て「ナショナリズムの高まりだ」と言う人もいるが、私は同意しない。ただ、こうした意見は、興味深い変化を捉えようとする表れだと思う。

――戦前の大日本帝国の時代は、強烈なナショナリズムと日本の「優位性信仰」が特徴だった。いま日本が安全保障面でより大きな役割を果たすにつれて、再びこうした機運が高まるのか。

中国の台頭によって、日本ではナショナル・アイデンティティーや防衛に関する議論が活発になると予想していた。ところが実際には、どちらの議論もほとんど起きていない。

この点については、多くの人がこう言うだろう。

「でも、日本は大きく変わった。中国脅威論は高まっている。反中感情も高まっている。中国の台頭を受けて、日本は外交面でも防衛面でもこれまで以上に積極的になっているではないか」

【関連記事】アベノミクスの生みの親が明かす安倍晋三の「リベラル」な一面

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、2月は予想上回る改善 25年7

ワールド

高市首相、食料品の消費税2年間ゼロ「できるだけ早く

ワールド

英元王子アンドルー氏、エプスタイン被告と公的文書共

ワールド

ウクライナ各地にドローン攻撃、子ども含む4人死亡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中