今年はまだゼロ! 習近平が「一帯一路」をまったく口にしなくなった理由
The BRI in Disguise
2019年に北京で開かれた一帯一路フォーラムには100カ国以上から数千人の代表が集まった FLORENCE LOーREUTERS
<悪評たらたらの一帯一路は捨てた? 習近平は「GDI」へ看板の掛け替えを図るが、国際社会の疑念を晴らすことがまず先決だ>
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、海と陸に現代版シルクロードを整備して巨大経済圏を構築する構想「一帯一路(BRI)」を発表したのは2014年のことだった。当初はシルクロードという歴史ロマン的な響きも相まって、世界の多くの国が魅了された。
ところが、それから10年近くたった今、一帯一路という言葉を中国の指導者たちの口から聞く機会は著しく減った。中国が中心となって世界の発展を図るというアイデア自体が消えたわけではない。ただ、グローバル発展イニシアティブ(GDI)という新しい看板が前面に押し出されるようになったのだ。
一帯一路は中国の外交になされた最強のブランディングであり、習のリーダーシップと強力に結び付けられてきた。それなのに最近は、習でさえも一帯一路という言葉を単独で使うことはほとんどない。今年に入り英訳が公表されたスピーチではゼロだ。
中国版ダボス会議とされる博鰲(ボアオ)アジアフォーラムや、BRICS首脳会議などでのスピーチでも「質の高い一帯一路共同建設」と語るなど、どこか濁した表現だ。
習の活動からも、一帯一路関連の仕事は消えつつある。17年と19年には、北京で「一帯一路フォーラム」が開催され、世界100カ国以上から首脳級の要人が集まったが、新型コロナの流行もあり、その後は開催されていない。
ただ、王毅(ワン・イー)外相が21年に、「一帯一路国際協力サミットフォーラム諮問委員会」をオンライン開催した。一帯一路関連の最大のイベントで、習近平自らが脚光を浴びることをやめたのだ。
21~22年に中国外交部のウェブサイトに英訳が掲載された中国政府高官のスピーチ80件のうち、一帯一路に言及しているのは44件。このうち22件は「質の高い一帯一路共同建設」「グリーン一帯一路」など、微妙に調整が施された表現になっている。
一帯一路の未来に垂れ込める暗雲
「一帯一路共同建設」という新しい表現は、一帯一路プロジェクトの未来に暗雲が垂れ込めていることを示唆している。興味深いのは、中国語の表現は「一帯一路」のみのままなのに、英訳になると「共同建設」とか「パートナーシップ」といった言葉が付くことだ。
以前の中国政府は、一帯一路というブランドにこだわり、「戦略」「プロジェクト」「計画」といった概念と関連付けられることをひどく嫌がった。どうやら中国は今、少なくとも国外向けには、一方的な印象を与える「構想」よりも、友好的な響きのある「共同建設」へと、一帯一路のイメージ転換を図っているらしい。
とはいえ、一帯一路の基本的なコンセプトが消えたわけではなく、GDIという、新しい看板に掛け替えられるだけのようだ。GDIは、習が21年9月の国連総会演説で言いだしたものだが、その内容は、一帯一路と同じくらい漠然としている。