最新記事

統一教会

選挙応援「ダサい」、親への怒り、マッチングサイト...統一教会2世たちの苦悩【石戸諭ルポ中編】

JUDGMENT DAY

2022年9月22日(木)11時07分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

選挙運動もシンプルなものだ。教会に政治家がやって来て演説することもあった。自民党や今年7月の参院選ならば「井上義行」に投票を呼び掛けるLINEや、時に選挙応援が必要な場所が指定された案内が教会幹部から回ってくる。

彼は同世代の信者たちにLINEでボランティアに行こうと呼び掛け、活動に熱心ではない信者には「たまには一緒に話そう」と誘う役割だった。

応援内容は些細なものだ。旧統一教会から応援にやって来た、と名乗ると自民党の支持者からも警戒されるので、「世界平和連合」などを名乗り、他のボランティアと一緒にビラ配りや街頭演説の会場設営を手伝って1日で解散する。

名前も覚えていない政治家の選挙よりも、解散後に仲間内で話す時間のほうを大切な時間として記憶している。

それでも彼らはロボットではない。本当に自民党に投票するかは別の問題である。他の2世から「呼び掛けは無視ですね。『井上って誰だよ?』みたいな」「政策を聞いて判断しますね。別に自民党だけにこだわる時代でもない」という声も聞いた。

話を戻そう。韓国と日本で信仰生活を送っていた彼にとって、生活は貧しさと隣り合わせだった。収入の10分の1を教会に寄付していた父の収入はおよそ十分とは言えず、狭い家しか借りることができなかった。弟も含め、親子4人で寝室を共にした。

とりわけ熱心だった韓国人の母は、学校のイベントで女子と手を握ったというだけで罪を犯したと見なし、罪を清算しろと断食や百回の土下座を課した。早朝に起きて、経典を読む生活も続けた。

しかし、帰宅時間が少し遅くなっただけで母は彼を詰問し、一人だけ早起きをして「サタンに取りつかれてしまった息子を救ってほしい」と彼にも聞こえるように祈った。少年時代に打ち込んでいたスポーツを断念し、バイトをしながら学費を捻出していたにもかかわらずだ。バイト代のうち10分の1は献金し、イベントごとに要請される献金にも出せる範囲で協力していた。

両親が喜ぶのなら、と韓国に渡り晩年の文鮮明から「祝福」を受け、合同結婚も経験したが結局、信仰へのスタンスの違いから、祝福を受けた相手とは別れることになった。

彼と両親の間で決定的な亀裂が生まれたのは、祝福と前後して彼の奨学金を両親が勝手に受け取り、無断で教会に寄付したからだ。100万円単位の奨学金が教団に流れたことが判明した。これに彼は怒った。

「僕は自分の教育費を自分で出して、社会人になってから使ってもいない奨学金の返済もしました。信仰が自分の一部だった時期はありますが、今は積み重なった虐待だと考えています。信仰から離れたいと思っている2世の中には、声を上げられない人もいるでしょう。家庭から出たところで、どうせ社会で受け入れられないと思ってしまうからです」

今、最も恐れているのは自分の過去が、職場にバレてしまうことだという。その時は、いられないと思ってしまうからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ステフィン・カリー、嘘みたいなロングシュート成功…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中