最新記事

異常気象

「イベリア半島が過去1000年で最も乾燥している」との研究結果

2022年7月7日(木)18時15分
松岡由希子

スペインのひび割れた貯水池(2021年) lvarobueno-iStock

<北大西洋に現れる亜熱帯高気圧の拡大によって、イベリア半島が過去1000年で最も乾燥していることが明らかとなった......>

北大西洋に現れる亜熱帯高気圧のアゾレス高気圧は、西ヨーロッパの天候や長期的な気候トレンドに大きな影響を及ぼす。このほど、アゾレス高気圧の拡大によって、イベリア半島が過去1000年で最も乾燥していることが明らかとなった。

北大西洋で時計回りに回転するアゾレス高気圧は、西ヨーロッパの降雨を調整する役割を担っている。夏には、地表へ下降する乾燥した空気が地中海西部に暑く乾燥した気候をもたらす一方、冬には、この高圧帯が膨張して偏西風を送り、内陸に雨をもたらす。

extremely-large-Azores-high0707b.jpeg


large-Azores-high0707a.jpeg

「非常に大きな」アゾレス高気圧の冬の間の降水量(上)と海面気圧(下)。矢印は水分輸送の方向を示す。Cresswell-Clay (2022)


アゾレス高気圧の拡大は1850年以降に現れた

米ウッズホール海洋研究所らの研究チームは、西暦850年以降約1200年にわたる気候モデルシミュレーションにより、アゾレス高気圧がどのように変化してきたのかを調べた。その研究成果は2022年7月4日、学術雑誌「ネイチャージオサイエンス」で掲載されている。

これによると、1850年以降、アゾレス高気圧が非常に大きくなる冬が顕著に増え、イベリア半島を含む地中海西部に異常な乾燥状態をもたらしている。このようなアゾレス高気圧の拡大は過去1000年で前例がなく、ポルトガルの石筍に残された降水量の痕跡とも整合した。

アゾレス高気圧の拡大は1850年以降に現れ、20世紀に入ってさらに強まっている。このタイミングは人為的に引き起こされた地球温暖化と一致する。

21世紀末までに降水量がさらに10~20%低下する

研究チームは「温室効果ガスの濃度の上昇により、アゾレス高気圧は21世紀の間も拡大し続けるだろう」と予測。21世紀末までに降水量のレベルがさらに10~20%低下すると予測され、イベリア半島での干ばつリスクの高まりが懸念されている。

ブドウやオリーブの栽培が盛んなこの地域では冬の雨が不可欠だが、20世紀後半以降、降雨量は減少している。これまでに「イベリア半島でのブドウ栽培の好適地が2050年までに25%以下まで縮小する」との予測が示されているほか、スペイン・コルトバ大学らの研究チームが2020年3月に発表した研究論文では「冬の干ばつと温暖化によりスペイン南部でオリーブ栽培の好適地が制限され、オリーブの生産量が21世紀末までに30%減少する」と予測されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中