最新記事

サイエンス

海を泳ぎ回ってマイクロプラスチックを回収する魚型ナノロボット

Scientists Create Fish-Shaped Robots to Absorb Microplastics in Oceans

2022年6月29日(水)16時27分
リー・バレン(ゼンガー・ニュース)

マイクロプラスチックを集める魚型ナノロボット(目盛りは10ミリ) ADAPTED FROM NANO LETTERS 2022, DOI: 10.1021/ACS.NANOLETT.2C01375/ZENGER

<海の生態系を危険にさらすマイクロプラスチックの効果的な回収方法がついに見つかった?>

広い海中を泳ぎ回り、マイクロプラスチックを回収する魚型ロボットが開発された。

マイクロプラスチックは微細なプラスチック粒子で、飲み込んだ海洋生物に害を与える可能性があるが、海の底に沈殿し、環境から除去するのが難しい。

そこで中国の科学者たちは、海の果てまでも「泳ぎ」、掃除してくれる小さな自律型ロボットを開発した。

四川大学のシンシン・ジャン率いる科学者チームは、このロボットのために耐久性のある新材料をつくりたいと考えた。生体のようなやわらかさを追求するソフトロボットに広く使われるゴム状のエラストマやゼリー状のヒドロゲルは、海洋環境では容易に破損してしまうためだ。

打ってつけだったのが、真珠を育む白蝶貝の内側に見られる炭酸カルシウムを主成分とする光沢物質「真珠層」だ。真珠層は、ミネラルとポリマーの複合物質の層と、大部分がシルクプロテインの層から成っており、強度と柔軟性を兼ね備えている。

研究チームは、この真珠層をベースに環状オリゴ糖のシクロデキストリンとスルホン化グラフェンを結合させて複合ナノシートをつくり、それをポリウレタンとラテックスの混合物にした。

これを何層にも重ねて、狭い場所にも泳いで入り込むことができる体長15ミリの魚型ロボットを完成させた。近赤外線レーザーの点滅で尾びれを揺らし、1秒間に体長の2.67倍の速度で移動する。

このロボットは、水中のポリスチレン・マイクロプラスチックを収集し、別の場所に運ぶことができる。

泳ぐ速さはプランクトン並み

研究チームは、この材料が損傷を受けても自己修復し、その結果、マイクロプラスチックを集める力を維持できることを示した。このロボットは、過酷な海洋環境で汚染レベルを監視するためにも活用できること。

研究チームは、中国四川省傑出青年自然科学基金、中国国家自然科学基金、中国国家重要研究開発計画から資金援助を受けたと述べている。

研究リーダーのジャンは次のように述べている。1秒間に体長の2.67倍という速度は「プランクトンに匹敵するスピードであり、ほとんどの人工ソフトロボットを上回っている」

「さらに、汚染物質を安定的に吸着し、たとえ破損しても、耐久性と機能を回復できる」

「私たちのナノ構造設計が、多機能性を求められるほかの統合ロボットに、効果的な発展をもたらすことを期待している」

九州大学によれば、世界の海には、約24兆個のマイクロプラスチックが存在すると推定されている。これらのプラスチック片は、特に川や湖、海の底に沈むと、摂取した動物に害を与える可能性がある。

(翻訳:ガリレオ)

*この記事は、独ゼンガー:ニュースの提供

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中