最新記事

沖縄の論点

加熱する安保議論には、沖縄の人々をどう守るかという視点が欠けている

OKINAWA, VICTIM OF GEOGRAPHY

2022年6月24日(金)17時05分
シーラ・スミス(米外交問題評議会上級研究員)

だが、今は沖縄でも、南西諸島における中国の軍事的プレゼンスに対する懸念が広がっている。読売新聞の最近の世論調査では、中国の動向を大きな脅威だと感じていると答えた人が沖縄でも非常に多かった。これは、沖縄の歴史や地位をめぐる複雑な問題に加わった新たな側面だ。

一時は沖縄でも、中国との貿易や観光の拡大に期待が高まったが、今は違う。それでも、玉城デニー知事が指摘するように、アメリカの中距離弾道ミサイルを沖縄に配備する案(米政府は前向きだ)には反対する声が大きい。中国は脅威だが、だからといって沖縄駐留米軍を増強するべきだとは思えないのだ。

アメリカと日本の戦略目標における沖縄の重要性は誰にも否定できない。だが、第2次大戦中に日本の本土で唯一地上戦の舞台となったように、沖縄はその地理ゆえに大変な苦難を強いられてきた。

沖縄戦では十数万人が命を落とし、アメリカの占領後は数万人が収容所に収容された。安全と生活のために移住を余儀なくされた人も多かった。環境も破壊され、飛行場をはじめとする米軍基地を建設するため、私有地や農地は強制的に収用された。

こうした歴史を無視すれば、新たな武力衝突に巻き込まれる可能性など想像もしたくない沖縄住民の心情は理解できないだろう。長い年月を経た今も、沖縄には第2次大戦の爪痕がまだ生々しく残っている。

台湾有事の議論やアジアの軍拡競争は、新たな戦争の不安を高めている。また、ロシアのウクライナ侵攻は、戦闘に巻き込まれた市民を待つ残忍な運命を思い起こさせた。

日米同盟における沖縄の戦略的価値や、日本の国防を強化する必要性が多々主張されるなか、沖縄の人々をどう守るかという議論は聞かれない。再び自分たちが国家の対立の矢面に立たされるのではないかと、沖縄の人々が不安を抑えられないのは、こうした沈黙のせいなのだ。

magSR20220624victimofgeography-2.jpgシーラ・スミス(米外交問題評議会上級研究員)
日本政治・外交の研究者。コロンビア大学卒。慶応大学客員研究員などを経て現職。1998年には琉球大学研究員として沖縄に住み、米軍基地問題を研究した。

【関連記事】写真特集:50年前の沖縄が発する問い

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中