最新記事

沖縄の論点

加熱する安保議論には、沖縄の人々をどう守るかという視点が欠けている

OKINAWA, VICTIM OF GEOGRAPHY

2022年6月24日(金)17時05分
シーラ・スミス(米外交問題評議会上級研究員)

沖縄の本土復帰と同時期に、アジアにおける米軍の規模縮小が進んだ。日本国内でも米軍は基地の統合整理を進め、特に首都圏や関東地方の基地や施設は次々に閉鎖されて跡地が返還された。

それに伴い、沖縄の米軍基地の重要性が増し、駐留米軍の規模も拡大。返還協定発効後10年ほどで沖縄の小さな島々に圧倒的多数の米軍基地が集中することになった。

東シナ海が日中の最前線に

米軍兵士とその家族数万人が沖縄で暮らすようになった結果、地元の自治体はさまざまな統治上の課題を抱えた。

日米地位協定は、駐留米軍の治外法権の概要を定める2国間協定だ。地方自治体は米軍関係のアメリカ人住民に対して権限を行使することができず、駐留米軍に関する問題は東京の日米地位協定の担当部局に吸い上げられた。

つまり地元の問題が国の政策の問題になる。事件や犯罪が起きると特に、自治体はもちろん、沖縄県民はそれ以上にもどかしい思いをしてきた。

1995年9月に起きた米兵による12歳の女子児童への集団レイプ事件を機に人々の抗議が再燃し、基地縮小の要求が高まった。

当時、日米政府は新しい日米防衛協力のガイドラインを策定しようとしていた。両国の政府は地元の怒りに応える形で、沖縄特別行動委員会(SACO)を設置。沖縄県民の負担を減らすために、米軍施設の整理統合や縮小、運用方法の調整について勧告をまとめるとした。

SACOの設置と前後して、沖縄県知事は米軍の軍用地の使用について協力を拒否した。国が知事を提訴したいわゆる「代理署名訴訟」は最高裁判所まで続き、1996年に県の敗訴が確定した。

それから1年余りのうちに、国会は駐留軍用地特別措置法の改正案を可決。軍用地の土地収用のプロセスから、知事を含む沖縄の公選役職者の役割が排除された。またしても沖縄の米軍基地の存在が、戦後の日本の地方自治において不可欠である代表制民主主義の手続きを制限する口実になったのだ。

沖縄をめぐる近年のおそらく最も顕著な変化は、日本の防衛戦略において沖縄の存在感が増していることだろう。

2000年代初頭以降、中国は海洋強国を目指している。かつては陸上防衛を軸としていたが、ここ数十年で近海の水域と空域を支配するという野心を重視するようになり、九州を起点に沖縄や台湾、フィリピンなどを結ぶ「第1列島線」を対米防衛線と見なしている。

最近では、中国人民解放軍の海軍が繰り返し琉球諸島の間を縫うように海峡を通過し、西太平洋およびその先で演習を行っている。さらに、空軍は日本列島全体を頻繁に周回している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア国営宇宙企業トップ、スターリンクの対抗事業開

ワールド

EUは26年末までにロシア産原油輸入停止を、ポーラ

ワールド

米銃撃事件で警官3人死亡・2人重傷、ペンシルベニア

ビジネス

日経平均は史上最高値を更新、足元は達成感から上げ幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中