最新記事

歴史問題

ベルギー名産品チョコレートと植民地支配──現国王の謝罪、今後の役割とは?

RESTITUTION FOR THE CONGO

2022年6月23日(木)17時41分
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授、元ニューヨーク・タイムズのアフリカ特派員)

220628p56_BTC_04.jpg

人道主義者の仮面の下でコンゴを植民地化したベルギーのレオポルド2世 W. & D. DOWNEYーHULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES


国境線の確定交渉でリュクサンブールとリンブルフ地域の半分を失った上、独立後はオランダ東インド会社を通じたアジアとの交易で荒稼ぎすることもできなくなっていたのだ。

ノルマ未達成なら手足を切断

そこで2代目の国王レオポルド2世は無謀とも見える企てに着手し、遠い異境の富を奪おうとした。当初は中国やフィリピンにも目を付けたが、最終的に行き着いた先は米エール大学の歴史学者ロバート・ハームズが2019年の著書『涙の土地』で、「欧州の探検と植民地拡大の最後のフロンティア」と呼んだ場所。つまり、鬱蒼たる密林に覆われたアフリカの中心部だった。

奴隷制反対のレトリックと人道主義者の仮面の下に強欲な素顔を隠したレオポルドは、アフリカ分割に関する欧州列強のベルリン会議で、インド洋経由の奴隷貿易をなくすという大義名分を掲げて、後にコンゴとなる広大な盆地の領有権を主張。まんまと承認を取り付けた。その面積はベルギー本国の約88倍、西欧全域がほぼすっぽり収まるほどの広さだ。

レオポルドはそこを自身の領地とし、「コンゴ自由国」なる何とも残酷で皮肉な名称を冠した独立国を建設して自らその君主となった。

住民たちは自由を与えられるどころか、強制的に象狩りを強いられ、レオポルドの蓄財のために膨大な量の象牙を集めた。レオポルドはまた、工業化の進む欧州で砂糖に代わる重要な産品の1つとなったゴムの生産も奨励した。

その手法は非人道的で苛烈を極めた。村の女性たちは日常的に人質に取られ、男性たちは「妻を返してほしければ、ゴムを持ってこい」と言われて密林の奥に入りそこに自生するゴムノキの樹液を採取する。ノルマを達成できなければ、見せしめのために公衆の面前で手足を切り落とされることもしばしばだった。

こうして19世紀末のわずか30年間でコンゴは外部の人間がほとんど入ったことのない世界有数の秘境から、世界でも指折りの無残に収奪された「涙の土地」に姿を変えたのである。

だが見境のない収奪はやがて国際的な非難を浴びることになり、レオポルドは自分の私有地だったコンゴをベルギーに移譲。1908年、コンゴ自由国はベルギー領コンゴとなった。

レオポルドの支配下にあった時代とその直後には最大1000万人もの住民が殺されるか劣悪な環境下で死に追いやられた。政府の直轄領になってからは統治機構は変わったものの、搾取の体質は変わらず。ベルギー政府はコンゴ盆地の膨大な富を吸い上げるばかりで、ほとんど何も還元しなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中