火星にある「人の目」状クレーター、探査衛星が捉える 「血管」部分は川の痕跡
火星探査衛星「マーズ・エクスプレス」がとらえたクレーター (ESA/DLR/FU Berlin)
<火星には約40億年前から、巨大な片目クレーターが刻まれていた>
欧州宇宙機関(ESA)の火星探査衛星「マーズ・エクスプレス」が、人間の目のように見える火星のクレーターを捉えた。この奇妙な形のクレーターは、地球上に最初の生命が誕生するかしないかという大昔から、ずっと火星の地に横たわっていたようだ。
クレーターは直径30キロに及ぶ巨大なもので、火星の南半球にある「アオニア大陸」に位置する。山手線の直径(東京駅・新宿駅間)が約10キロであるため、その3倍となる。
今年4月25日、ESAのマーズ・エクスプレスがこのクレーターの画像を捉えると、そこにはまるで人間の片目のような形状が写されていた。6月に入って画像が掲載され、海外でその独特な外観が話題となっている。
クレーター中央の黒い窪みが瞳を思わせるほか、クレーターのリム(縁)の形状も独特だ。真円ではなくラグビーボール様に扁平しており、これも上まぶたと下まぶたに囲まれた目を思わせる。
ESAは『火星は片目を開けて寝ている』との記事を公開し、興味深い地形として紹介している。ちなみに「片目を開けて寝る」とは、寝るときでさえ用心を怠らないという意味の慣用句だ。こうした興味深い形状をもつクレーターだが、まだ独自の名前は付けられていない。
無数の筋は水の痕跡の可能性
クレーター周囲には無数の筋が走っており、まるで人の血管のようにもみえる。科学者たちはこの血管状の筋について、40〜35億年ほど前に液体の水が流れていた痕跡ではないかと考えている。
筋は場所によってやや暗い色を帯びていたり、周囲の地面よりも盛り上がっていたりする箇所がある。ESAはこの理由について、たとえば水底の一部に土砂が沈殿しており、その部分が流水による侵食を免れたのではないかと推測している。あるいは火星の長い歴史のなかで溶岩が流れ込み焦がされた可能性など、さまざまなシナリオが考えられるという。
このほかクレーター内には、ビュートと呼ばれる地形があることも確認された。ビュートとは周囲が侵食されたため局所的に残った丘のことで、地球上でもアメリカのモニュメント・バレーのビュートなどが有名だ。今回のクレーター内部にはこうしたビュートのほか、瞳のような黒い部分に砂丘のような隆起があるなど、独特な地形が多くみつかっている。