最新記事

火星

火星にある「人の目」状クレーター、探査衛星が捉える 「血管」部分は川の痕跡

2022年6月22日(水)19時30分
青葉やまと

火星探査衛星「マーズ・エクスプレス」がとらえたクレーター  (ESA/DLR/FU Berlin)

<火星には約40億年前から、巨大な片目クレーターが刻まれていた>

欧州宇宙機関(ESA)の火星探査衛星「マーズ・エクスプレス」が、人間の目のように見える火星のクレーターを捉えた。この奇妙な形のクレーターは、地球上に最初の生命が誕生するかしないかという大昔から、ずっと火星の地に横たわっていたようだ。

クレーターは直径30キロに及ぶ巨大なもので、火星の南半球にある「アオニア大陸」に位置する。山手線の直径(東京駅・新宿駅間)が約10キロであるため、その3倍となる。

今年4月25日、ESAのマーズ・エクスプレスがこのクレーターの画像を捉えると、そこにはまるで人間の片目のような形状が写されていた。6月に入って画像が掲載され、海外でその独特な外観が話題となっている。

クレーター中央の黒い窪みが瞳を思わせるほか、クレーターのリム(縁)の形状も独特だ。真円ではなくラグビーボール様に扁平しており、これも上まぶたと下まぶたに囲まれた目を思わせる。

ESAは『火星は片目を開けて寝ている』との記事を公開し、興味深い地形として紹介している。ちなみに「片目を開けて寝る」とは、寝るときでさえ用心を怠らないという意味の慣用句だ。こうした興味深い形状をもつクレーターだが、まだ独自の名前は付けられていない。

Topography_of_Aonia_Terra.jpeg

マーズ・エクスプレスのデータから編集された、この地域の地形図 (ESA/DLR/FU Berlin)


無数の筋は水の痕跡の可能性

クレーター周囲には無数の筋が走っており、まるで人の血管のようにもみえる。科学者たちはこの血管状の筋について、40〜35億年ほど前に液体の水が流れていた痕跡ではないかと考えている。

筋は場所によってやや暗い色を帯びていたり、周囲の地面よりも盛り上がっていたりする箇所がある。ESAはこの理由について、たとえば水底の一部に土砂が沈殿しており、その部分が流水による侵食を免れたのではないかと推測している。あるいは火星の長い歴史のなかで溶岩が流れ込み焦がされた可能性など、さまざまなシナリオが考えられるという。

このほかクレーター内には、ビュートと呼ばれる地形があることも確認された。ビュートとは周囲が侵食されたため局所的に残った丘のことで、地球上でもアメリカのモニュメント・バレーのビュートなどが有名だ。今回のクレーター内部にはこうしたビュートのほか、瞳のような黒い部分に砂丘のような隆起があるなど、独特な地形が多くみつかっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中