世界初、鳥の言葉を解読した男は研究のため東大助教を辞めた「小鳥博士」

2022年6月18日(土)12時38分
川内イオ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

newsweek_20220617_223354.jpg

動物言語学の創設に向けて鈴木さんの挑戦は続く 筆者撮影

ここ1、2年でシジュウカラ語の研究が広く知られるようになり、鈴木がメディアに露出する機会も増えた。現在、新しい研究に取り組んでいる最中で、これまで通り観察と実験に没頭していたいはずだが、合間を縫って対応している。

それは、「自分が見てきた新しい世界を、人間の世界につなぎたい」という想いがあるからだ。特に、子どもたちに伝えたいという気持ちが強く、NHKの科学番組に出たり、中学生の国語の教科書に説明文を書いたりしてきた。

「僕は小さい時の経験が今に続いているし、その頃からいろいろ観察してきたことで、今、ほかの人と見える世界が違うと感じています。勝手に人間だけが高貴な存在と思ってしまうと、例えば環境を守らなきゃいけないと言われても、本当の意味で理解できないと思うんです。でも、言葉を持っているのが人間だけじゃないとわかったら、ほかの動物の見方も変わるでしょう。この豊かな世界を知ることが、自然に対して人間はなにができるのかを考える上で大事だと思っています。子どもたちがそういう観点を持つことは、すごく大切なことだと思うんです」

寝ても覚めてもシジュウカラ

冒頭に記したように、鈴木は「動物言語学」という学問を創設しようとしている。この学問が国境を越えて広がり、シジュウカラ以外の動物も言葉を話していることがわかったら? 今、人間が見ている世界は、表層なのかもしれない。

ところで、古今東西の動物学者のなかで、なぜ、鈴木だけが動物の「言葉」を解き明かすことができたのか? この言葉が、答えだろう。

「僕は、シジュウカラという動物を世界で一番見てるんで。ほかの人が追いつかないぐらいの時間をかけて観察しようと思っていて、そしたらほかの人が気づかないことに気づくんですよ」

著名な芸能人と一緒にテレビに出るようになった今も、軽井沢では格安のゲストハウスが定宿。朝はシジュウカラのさえずりで目覚め、夢にはシジュウカラの鳴き声の波形が出てくる。寝ても覚めてもシジュウカラに囲まれた生活だ。息抜きする時は、なにをしているんですか? と尋ねたら、間髪入れず、こう答えた。

「公園に行ってシジュウカラを見る!」

川内 イオ(かわうち・いお)

フリーライター
1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、企画、イベントコーディネートなどを行う。2006年から10年までバルセロナ在住。世界に散らばる稀人に光を当て、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。著書に『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)、『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』(文春新書)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ガザ停戦維持に外交強化 副大統領21日にイスラ

ワールド

米ロ外相が「建設的な」協議、首脳会談の準備巡り=ロ

ビジネス

メルク、米国内事業に700億ドル超投資 製造・研究

ワールド

コロンビア、駐米大使呼び協議へ トランプ氏の関税引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 9
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 10
    トランプがまた手のひら返し...ゼレンスキーに領土割…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中