最新記事

進化

「進化系統樹は大部分が誤りの可能性」 収れん進化が進化生物学者たちを騙してきた

2022年6月16日(木)18時45分
青葉やまと

ヘッケルの系統樹 wikimedia

<進化の過程をツリー状にまとめた「進化系統樹」。英研究チームは、過去100年以上にわたり作成されてきたこうした図に多くの誤りが含まれていると指摘している>

現在地球上にあるあらゆる生命は、共通の祖先をもつと考えられている。太古の昔に生命が誕生した時点では単一の種の菌が存在したのみだったが、時代が下るとともに分岐を繰り返し、現在のような多様な生命が育まれるようになった。

こうした進化上の分岐のようすを図にまとめたものが、「進化系統樹」と呼ばれる図表だ。まるで生物の家系図のように、近縁関係を表している。系統樹はさまざまなスケールで作成されており、生物全体を扱う包括的なものもあれば、鳥類に限定したものや、より小さなグループに特化したものもある。いずれも類似する生物同士を樹形樹状に整理することで、進化の過程でどのように枝分かれしてきたのかを推定したものだ。

ところが、イギリス・バース大学の研究チームがこのたび、19世紀から作成されてきたこうした図の多くに間違いが含まれていると指摘した。実際の進化の歴史とは大きく異なるという。論文が5月31日付で生物学誌『コミュニケーションズ・バイオロジー』に掲載されている。

ダーウィン以来の分類手法

系統樹の作成に用いられる代表的な手法として、2つの方法論がある。論文はこのうち、19世紀から多く用いられてきた分類手法の問題点を指摘している。

問題の手法は、形態学の見地に基づくものだ。骨格上大きく類似している生物同士を近い種とみなし、樹形樹上で同じ枝のうえに配置する。この手法は、生物学の世界で歴史的に多用されてきた。科学ニュースを扱うサイテック・デイリー誌は、「19世紀のダーウィンとその同世代の研究者たち以来、生物学者たちは骨格と構造(すなわち形態学)を注意深く調査することで、動物の『家系図』を再現しようと試みてきた」と解説している。

しかし、近年では遺伝子解析技術の発達を受け、分子生物学の観点に基づく分類が多く行われるようになった。外見上の違いにとらわれず、遺伝子配列の類似度をもとに生物の進化の過程を推定する手法だ。そこで持ち上がった問題が、旧来の手法で作成した系統樹との矛盾だ。サイテック・デイリー誌は、「我々がかつて密接に関連していると考えていた生物が、実はツリー上の完全に違う枝に含まれていたと証明する結果となることがしばしば起きている」と述べる。

Elephant-Shrew.jpg

ハネジネズミ象と同じ進化の枝のうえに分類される...... Udo Kieslich-iStock

地理的な分布との整合性を検証

2つの手法で作成した系統樹同士に矛盾が確認された場合、遺伝子解析による系統樹の信頼性がより高いとみなすのが通例だ。バース大学の研究チームは、遺伝子ベースの手法がより正確であることを確認したいと考えた。そこで、2つの手法で作られた複数の系統樹について、実際の生物の地理的な分布とそれぞれ比較した。

96種48組の系統樹で統計を取ったところ、遺伝子解析をもとに作成した系統樹のほうが地理的な分布との矛盾が少ないことがわかったという。バース大学ミルナー進化センターのマシュー・ウィルズ教授は、科学ニュースを報じるZMEサイエンス誌に対し、「多くの進化樹を私たちは誤って捉えていたことが判明したのです」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米との鉱物資源協定、週内署名は「絶対ない」=ウクラ

ワールド

ロシア、キーウ攻撃に北朝鮮製ミサイル使用の可能性=

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中