ロシアに洗脳された市民に食料を届ける、歓迎されない牧師に会った──ドンバス最前線ルポ
CIVILIANS IN DIRE STRAITS
ドンバスの住民は食料などの支援物資を待つが戦闘激化で遅れが生じている(写真と本文の取材対象者は関係ありません) CELESTINO ARCE LAVINーZUMA/AFLO
<ウクライナ東部の町で、地下に身を隠し、水も電気もない生活を送る住民たち。「ウクライナから攻撃されている」と信じる彼らを支援し続けるプロテスタントの牧師>
空がうっすらと色づき、夜が明ける頃、オレグ・タカチェンコは今日も自家用車のバンに大量の支援物資を詰め込み戦場と化した町へと出発する。向かう先は、ウクライナ東部ドンバス地方に位置するドネツク州の町ブレダールだ。
自分も死ぬかもしれない。そう分かっていながら、プロテスタントの牧師であるタカチェンコは週に何度か、ブレダールへと車を走らせる。数週間前には、彼のバンからわずか50メートルの所に破裂弾が飛んできた。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、今はここ、ドンバスが戦争の最前線となっている。そこで暮らす市民の生活は既に限界を超え、多くがロシアの砲撃にさらされながら、水も電気もない生活を送る。
火を使えるのは、砲撃と砲撃の合間だけ。その間に、屋外に出てわずかな食料を直火で調理する。特に年老いた人や貧しい人、病を患う人にとっては綱渡りの毎日が続く。
タカチェンコは、ウクライナ当局や国際支援団体が入れないような所にも率先して食料や物資を運ぶ。ここで生活する彼らにとって、タカチェンコのようなボランティアたちは文字どおり生命線となっている。
「(ドンバスで親ロシア派とウクライナ政府が武力衝突した)2014年も危なかったが、今はさらに危険だ。だが私の使命は人々を助けることだから」と、タカチェンコは言う。
7人の子を持つ52歳の彼は、2014年から支援活動を続けてきた。パンやジャガイモ、(可燃性の液体)ベンジンと一緒に、インスリンなど生死に関わる薬を運ぶこともある。
「水がなくても3日、食料がなくても2週間は生きられる。だが薬がないと、数時間で死に至るかもしれない」と、タカチェンコは言う。
戦争開始から100日余りがたつなか、ロシアはウクライナ領土の約5分の1を掌握してきた。
現在、最も厳しい戦闘が続くウクライナ東部ルハンスク(ルガンスク)州の要衝セベロドネツクでは、6月初めの週末にウクライナが反撃して市の半分を奪還した。しかしルハンスク州の95%はロシア軍に占拠されている。
ロシア軍はゆっくりだが着実に進撃しており、ルハンスクに残る最後の土地を掌握した暁には、南進を開始してドネツク州やブレダールのような都市に向かうとみられている。
人口1万4000人ほどのブレダールは、2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始したその日から戦火にさらされてきた。侵攻初日、町の病院のすぐそばにクラスター弾を搭載したロシアの弾道ミサイルが着弾し、4人の市民が犠牲となったのだ。