最新記事

ウクライナ戦争

ロシアに洗脳された市民に食料を届ける、歓迎されない牧師に会った──ドンバス最前線ルポ

CIVILIANS IN DIRE STRAITS

2022年6月14日(火)20時15分
リズ・クックマン(ジャーナリスト)

220621p26_DPR_05.jpg

ドネツクにあるシェルターで食事の準備をする女性 GLEB GARANICH-REUTERS

ブレダールの住民たちによれば、砲撃は4月初めから絶え間なく続いており、彼らは一日中、地下に身を隠しながら生活している。

アパートが立ち並ぶ集合住宅で、64歳のタチャーナは穴が開いた2階を指さし、あそこで暮らしていたのだと教えてくれた。アパートの正面は真っ黒に炭化し、そばには旧ソ連製ロケットの一部が転がっていた。

「彼らは毎晩、砲撃してくる。昨夜も、今朝も、毎日だ。日曜は朝から晩まで砲撃が続く。外に出て火を使うこともできない。もうこんな生活、耐えられない」とタチャーナは言う(本人の希望により名字は匿名)。

1斤のパンでいさかいも

彼女は即席で作った墓地を見せてくれた。青々とした木々の下にあり、かつては休息場所だった所だ。土が盛られた3つの墓が整然と並び、プラスチックと木製の合わせくぎで作られた十字架が立てられている。

「彼らは高齢のために亡くなった。砲撃の最中に埋葬しなくてはならなかったので......」と、タチャーナは言う。「後でしっかりと埋葬する」

空を切り裂くような砲弾が危険なほど近づいてくると、タカチェンコは車に飛び乗り急いで立ち去った。

次に向かった集合住宅に到着すると、四方八方から人々が出てきて列を成す。彼らは「唯一の食料源」というタカチェンコの配給を手に入れるために必死だ。住民が1斤のパンを手にする際には、いさかいも起こる。

ドンバスの前線の状況が深刻さを増すにつれ、ロシア軍がマリウポリで見せた戦術を繰り返すのではないかという懸念が生まれている。マリウポリでロシア軍は何カ月もウクライナ人を包囲し、最大で5万人を殺した。

双方に停戦の意思はなく、ウクライナが勝利に向かって邁進すれば、ロシアも目的を達するまで進み続ける。その目的が何かは、ほとんど定義されていない。

「電気は3月15日から、ガスは4月10日から途絶えている」と、62歳の住人ビャチェスラフは言う。

彼は階段へと私を案内すると、5人の家族が寝床にする冷たくじめじめした地下室を見せてくれた。中には木の板で作られたベッドがある。夜の明かりはろうそくか、オイルランプだけだと言う。

11歳の孫娘カチャは、爆発のたびに壁が揺れると言いながら、愛猫を抱き締めていた。

「3月19日には店が破壊された。どのようにしてかは分からないが、気付いたらなくなっていた。水道は戦争前から始まっていた爆撃で既に断水していた」と、ビャチェスラフは言う。

「誰もゴミを処理してくれない。気温が高くなっており、臭いは日に日にひどくなる。大量のハエがたかって病気が心配だ」

住民たちによれば、手に入る水は工業用水だけで、飲料には適していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中