ロシアに洗脳された市民に食料を届ける、歓迎されない牧師に会った──ドンバス最前線ルポ
CIVILIANS IN DIRE STRAITS
ブレダールの住民たちによれば、砲撃は4月初めから絶え間なく続いており、彼らは一日中、地下に身を隠しながら生活している。
アパートが立ち並ぶ集合住宅で、64歳のタチャーナは穴が開いた2階を指さし、あそこで暮らしていたのだと教えてくれた。アパートの正面は真っ黒に炭化し、そばには旧ソ連製ロケットの一部が転がっていた。
「彼らは毎晩、砲撃してくる。昨夜も、今朝も、毎日だ。日曜は朝から晩まで砲撃が続く。外に出て火を使うこともできない。もうこんな生活、耐えられない」とタチャーナは言う(本人の希望により名字は匿名)。
1斤のパンでいさかいも
彼女は即席で作った墓地を見せてくれた。青々とした木々の下にあり、かつては休息場所だった所だ。土が盛られた3つの墓が整然と並び、プラスチックと木製の合わせくぎで作られた十字架が立てられている。
「彼らは高齢のために亡くなった。砲撃の最中に埋葬しなくてはならなかったので......」と、タチャーナは言う。「後でしっかりと埋葬する」
空を切り裂くような砲弾が危険なほど近づいてくると、タカチェンコは車に飛び乗り急いで立ち去った。
次に向かった集合住宅に到着すると、四方八方から人々が出てきて列を成す。彼らは「唯一の食料源」というタカチェンコの配給を手に入れるために必死だ。住民が1斤のパンを手にする際には、いさかいも起こる。
ドンバスの前線の状況が深刻さを増すにつれ、ロシア軍がマリウポリで見せた戦術を繰り返すのではないかという懸念が生まれている。マリウポリでロシア軍は何カ月もウクライナ人を包囲し、最大で5万人を殺した。
双方に停戦の意思はなく、ウクライナが勝利に向かって邁進すれば、ロシアも目的を達するまで進み続ける。その目的が何かは、ほとんど定義されていない。
「電気は3月15日から、ガスは4月10日から途絶えている」と、62歳の住人ビャチェスラフは言う。
彼は階段へと私を案内すると、5人の家族が寝床にする冷たくじめじめした地下室を見せてくれた。中には木の板で作られたベッドがある。夜の明かりはろうそくか、オイルランプだけだと言う。
11歳の孫娘カチャは、爆発のたびに壁が揺れると言いながら、愛猫を抱き締めていた。
「3月19日には店が破壊された。どのようにしてかは分からないが、気付いたらなくなっていた。水道は戦争前から始まっていた爆撃で既に断水していた」と、ビャチェスラフは言う。
「誰もゴミを処理してくれない。気温が高くなっており、臭いは日に日にひどくなる。大量のハエがたかって病気が心配だ」
住民たちによれば、手に入る水は工業用水だけで、飲料には適していない。