解放ムードにお祭り騒ぎ──「コロナ収束を信じたい心理」が強すぎるアメリカ
THE PRICE OF COMPLACENCY
死者を減らすのは「投資」
ウイルスの変異は制御できなくても、備えを固めることはできる。委員会に参加したミネソタ大学感染症研究・政策センターのマイケル・オスターホルム所長によれば、最悪のシナリオの犠牲者数に10万~30万人と大きな幅があるのは、その数が国の対応に左右されるからだ。
検査、抗ウイルス薬、ワクチンが行き渡るようにしっかり予算を組んで対策を立てるか。それともコロナ疲れに屈し、流行が収束したふりを決め込むのか。20万人の命運を握るのは国だ。「投資が大きいほど死者は減る。この点に疑問の余地はない」と、オスターホルムは言う。
今後、ウイルスが猛威を振るうかどうかは分からない。だが最悪を想定せずに明るいシナリオを信じるのが無謀なことは、ウイルスの動きを振り返れば分かる。昨年夏はデルタ株の感染拡大で死者が増え、1月には感染力の強いオミクロン株が広がった。「専門家なら『ウイルスとの賭けに勝てると思うな』と忠告するはずだ」と、オスターホルムは言う。
長期的な不安もある。人々が過去2年間に目の当たりにした公衆衛生制度の脆弱さを忘れ、現状に甘んじることだ。この国は公衆衛生を抜本的に見直し、他の先進国のレベルに引き上げることが求められている。
このような抜本的見直しは、新型コロナのパンデミックだけでなく、別の新たな感染症や生物兵器といった生物学的脅威に対する「保険」としても機能するはずだ。近年、低コストの遺伝子操作法の驚くべき進歩によって後者の脅威は増している。
見直しのコストは、いまホワイトハウスと議会が争っている数十億ドルよりもはるかに大きくなりそうだ。先述の報告書によれば、公衆衛生のインフラ整備に1000億ドルの初期支出が必要で、その後も体制維持に毎年約200億ドルがかかるという。
1000億ドルは大金のようだが、何もしない場合のコストに比べれば、わずかなものだ。
楽観的シナリオの落とし穴
バイデン政権が従来のパンデミック対策を継続するために求めている額は、もっと控えめだ。その中には、現在開発中のオミクロン特化型を含むブースター接種用ワクチンの購入費、無保険者の検査、治療、ワクチン接種を行う臨床医への補償、抗ウイルス薬の購入費、現行の検査態勢の維持、あらゆる変異株に有効なワクチン開発への投資などが含まれる。
共和党はこうした対策への追加支出に反対し、既存の新型コロナ対策予算の使い残しを活用すべきだと主張している。この場合、各州に支出した資金を回収する必要があり、民主党は現実的ではないとみている。