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史実はNHK大河ドラマとまったく違う ── 源頼朝が弟・義経の死に際し実際にやったこと

2022年6月26日(日)18時29分
濱田 浩一郎(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

検非違使は、京都の治安維持などを担う役割があります。留任となると、当然、京都にとどまることになります。ですが、源氏一門は、源範頼のように鎌倉に住むのが原則でした。頼朝も、検非違使を外れた義経は鎌倉に召喚すべきと考えていたはずです。

この人事は、義経が法皇と結んで鎌倉に帰ることを拒否したと言えます。よって、頼朝は伊予に地頭を置き、国務を妨害したのです。

頼朝が義経の鎌倉召還を望んでいたと書くと「頼朝は義経を本当は好ましく思っていたからではないか」と思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。好き嫌いの問題ではなく、頼朝からしたら、原則は守れよということです。頼朝の意向を無視したから、義経は切られたのです。

災いの種となる存在は消すしかない

義経は、壇ノ浦合戦後に、平時忠(平清盛の義弟)の娘を側室に迎えていました。これは、後白河院のみならず、平家の残党と義経が結び付く可能性も示唆しています。

将来のことを考えたとしても、義経は邪魔な存在になりかねません。頼朝としてはわが子・頼家(後の2代将軍)を後継者に考えていたわけですが、義経が生きていたら、そううまく事が運ぶかどうか。頼朝は先を見越して、そのことも心配していたのではないでしょうか。

範頼も、謀反の疑いをかけられて、流罪・殺害(1193年)されてしまいますが、範頼殺害の背景にも、頼朝の疑心があったのではないかと思います。義経も範頼も、頼朝からしたら、後継者であるわが子・頼家の邪魔になる存在だから消した、と私は考えています。

しかし、頼朝が義経に怒ったその発端は、壇ノ浦合戦後に、頼朝の許可も得ずに勝手な振る舞いをしていたことにあるでしょう。

そして最終的には、義経が鎌倉召還を拒否したことにより、将来の災いの種になることを危ぶみ、よって頼朝は義経を消すことを考えたのだと思います。

史実として書かれている義経の最期

頼朝に対し、挙兵するも味方する者は少なく、義経は最終的には奥州藤原氏を頼ります。頼朝は奥州の藤原泰衡(やすひら)に圧力をかけ、義経を討つように仕向け、1189年閏4月30日、ついにそれが実行されます。義経がいる衣川館を泰衡軍が襲撃したのです。

大河ドラマでは、義経の最期に主人公・北条義時が関与していましたが、そうしたことを示す史料はありません。義経の死の直前に義時がいたということも、もちろんありません。

義経の首は、奥州藤原氏の使者が鎌倉に届けます(同年6月13日)。首は黒漆の櫃(ひつ)に入れられ、酒に浸されていました。首実検をしたのは、侍所の関係者である和田義盛と梶原景時。義経の首実検を見る者は皆、涙を流したといいます。頼朝はその場にはいませんでした。

「鎌倉殿の13人」の第20回放送では、頼朝が義経の首が入った黒櫃を抱きしめ、涙するシーンが感動を誘いましたが、実際には頼朝は黒櫃さえも見なかったでしょう。

濱田 浩一郎

作家
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。姫路日ノ本短期大学・姫路獨協大学講師を経て、現在は大阪観光大学観光学研究所客員研究員。著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『超口語訳 方丈記』(彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)など。近著は『北条義時 鎌倉幕府を乗っ取った武将の真実』(星海社新書)。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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