最新記事

植物

180キロ以上に広がる世界最大の植物が発見される

2022年6月3日(金)18時30分
松岡由希子

オーストラリア西海岸中央部で、世界最大の植物が発見された...... Chris Gordon-iStock

<オーストラリア西海岸中央部で、世界最大の植物が発見された......>

ユネスコ(UNESCO)の世界遺産に登録されているオーストラリア西海岸中央部のシャーク湾で、一個体として180キロ以上に広がる海草の一種「ポシドニア・オーストラリス」が見つかった。

これは既知の植物として最大となる。その研究論文が2022年6月1日付の「英国王立協会紀要B」に掲載された。

染色体数が通常の2倍

西オーストラリア大学とフリンダース大学の研究チームは、シャーク湾の海草藻場の遺伝的多様性を調査するべく、2012年と2019年にシャーク湾の計10カ所でポシドニア・オーストラリスの試料144点を採取し、遺伝子マーカー1万8021件を解析した。その結果、1本のポシドニア・オーストラリスから200平方キロに広がるリボン状の海草藻場になっていることがわかった。

この世界最大の植物は「倍数体」(染色体が普通の個体2nの倍数)であることも特徴だ。通常、海草は両親からそれぞれ半分の染色体を受け継ぐ一方、倍数体は両親の全ゲノムを受け継ぐため、染色体数が通常の2倍となる。たとえば、バナナやジャガイモ、セイヨウアブラナなどが倍数体として知られる。倍数体はしばしば極限環境条件で生息し、そのままにしておくと限りなく成長し続ける。

シャーク湾は最終氷期後に海面が上昇した8500年前頃に形成された。塩分濃度が通常の2倍になる場所もあり、年間の海水温は冬の17度から夏の30度まで大きく変動する。海水中の栄養レベルは低く、光量が多い。また、温帯と熱帯の境界に位置するため、極端な気候変動や海洋熱波、サイクロンといった異常気象にもさらされる。

06683d67a7e6584db7e801dc2134c6d0.jpeg

一個体として180キロ以上に広がる海草の一種「ポシドニア・オーストラリス」が見つかった Credit: Rachel Austin

オーストラリア西海岸の過酷な環境に適応

このポシドニア・オーストラリスは、その大きさや成長速度から、推定約4500年前に生まれ、シャーク湾の過酷な環境に適応しながら成長してきたとみられる。最近では、2010年から2011年の夏期にオーストラリア西海岸が未曽有の熱波に見舞われた際、陸上生態系や海洋生態系にも影響が及び、2010年から2014年にかけて1310平方キロの海草藻場が消失した。このポシドニア・オーストラリスも影響を受けたが、自然回復により一部では熱波以前のレベルに戻っている。

通常、環境の変化に適応するためには有性生殖が最適だ。遺伝的多様性を高めることで、環境の変化に対応しやすくなる。しかし、このポシドニア・オーストラリスは、開花するものの、ほとんど結実しない。

研究チームは「シャーク湾の環境に非常によく適した遺伝子を持つため、有性生殖する必要がないのだろう」とし、その要因として「この環境下での持続を助ける少数の体細胞変異(生殖細胞以外の体細胞に起こる突然変異)が起こっているのかもしれない」との仮説を示している。研究チームでは、今後もシャーク湾での研究をすすめ、「この巨大な海草がどのように生き残り、繁栄してきたか」について、解明する方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

エアバス、11月の納入数が減少 胴体パネル問題で

ワールド

台湾最大野党主席、中国版インスタの禁止措置は検閲と

ビジネス

ドイツ景気回復、来年も抑制 国際貿易が低迷=IW研

ワールド

台湾、中国の軍事活動に懸念表明 ロイター報道受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中