最新記事

インタビュー

「バイデンの率直さは新鮮。民主主義と独裁国の戦いは今後も続く」NATO元事務総長ラスムセン

WORLD WILL SPLIT IN TWO

2022年5月26日(木)12時10分
トム・オコナー(本誌外交担当)
アナス・フォー・ラスムセン

元デンマーク首相で、2014年までNATO事務総長を務めていたラスムセン(2013年) GIORGIO COSULICH/GETTY IMAGES

<ウクライナ戦争が突き付ける21世紀の地政学的現実とその経済的な影響を、本誌単独インタビューで語った>

巧みな策謀でロシアがウクライナからクリミア半島を強奪した2014年、アナス・フォー・ラスムセンはNATOの事務総長だった。あれから8年、今はロシアが本気でウクライナに攻め込み、NATO陣営も本気でロシア側に対抗している。

今こそ世界中の民主主義国は団結して、独裁者たちの陣営に立ち向かうべきだと論ずるラスムセンに、本誌トム・オコナーが4月末に単独インタビューした。

ラスムセンは元デンマーク首相で、退任後の2009年から2014年までNATOを率いる立場にあった。現在は自ら創設したNPO「民主主義同盟財団」の代表として、各国における民主主義の発展と、民主主義陣営の連帯強化に努めている。

しかし今は、NATO加盟を希望するヨーロッパの独立国にロシアが公然と戦争を仕掛け、アジア太平洋地域やアフリカでは中国が欧米流の民主主義に対抗する勢力圏の構築を進めている時代だ。

こうなると民主主義陣営と独裁陣営の緊張が高まるのは必至であり、これまでは緊張緩和の役に立つと考えられていた両陣営間の経済的な絆も、遠からず断ち切られるのではないか。ラスムセンはそう危惧している。

◇ ◇ ◇

――ロシアのウクライナ侵攻を受け、アメリカとNATO加盟国、そしてEUはロシアへの制裁などで結束を強めているが、こうした措置による経済的な打撃は国によって異なる。この団結は維持できるか

むろん、団結の維持は容易でない。アメリカとヨーロッパの分断を図る動きもあるはずだ。だが私の考えでは、この団結は維持できる。

エネルギー問題を例に取ろう。ロシアはポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を一方的に停止した。これで(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンは、エネルギーを武器として使う意図を明確にした。

しかし武器だと言われたら、ヨーロッパも一致団結して対抗する気になる。ロシアがそうやってくる限り、こちらも団結を強める。

――確かに、ロシアがこう出るのを待っていた向きは多いだろう。支持率が低迷していたアメリカ大統領のジョー・バイデンもその1人だと思う。さて、あなたはバイデン政権の外交政策をどう評価するか?

政治家のリーダーシップに関しては、国外の評価と国内の評価が異なることは珍しくない。ヨーロッパから見ると、バイデンはかなりよくやっている。ヨーロッパとアメリカの連帯はかつてなく強い。

バイデン大統領のリーダーシップが、こういう状況をもたらした。この点に関して、バイデン政権に不満はない。

それに、バイデンは何度か自分の気持ちを率直に述べている。ポーランドを訪問したときは(プーチンを「権力の座にとどまらせてはいけない」という)原稿にない発言をした。あれはヨーロッパ人の心に響いた。経験豊富な指導者であるだけでなく、時には率直に本音を語れる人間だという印象を与えた。

その前には、中国が台湾に侵攻したらアメリカは絶対に守ると断言した。(中国を名指しするのは)外交レベルでは禁忌だが、バイデンは気にしなかった。ヨーロッパの人間から見ると、あれはすごく新鮮だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中