最新記事

中印

世界が忘れた「中印」衝突の危機──振り上げられた「習近平の拳」の行方は

THE CLASH OF ASIA’S TITANS

2022年5月24日(火)20時24分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
中印国境地帯

中国と国境を接するラダック地方を行くインド軍部隊(昨年6月) YAWAR NAZIR/GETTY IMAGES

<ウクライナでロシアが行ったことを、より狡猾で目立たない形で実行した中国だが、それでもやはり「代償」は支払うことになりそうだ>

世界の注目がウクライナ情勢に集まるなか、国際社会の視野から抜け落ちてしまいそうな問題がある。アジアにおける中国の領土拡張主義だ。とりわけ中国とインドとの国境紛争が続くヒマラヤ山脈で、この2つの大国は既に2年以上にわたり戦時体制を敷いている。激しい軍事衝突の可能性は日増しに高まるばかりだ。

きっかけは2020年5月。春が訪れ、国境地帯への道が開けると、インド側は大変な衝撃を受けた。北部ラダック地方の広範な地域が、中国軍によってひそかに占拠されていたのだ。

これが一連の軍事衝突につながり、45年ぶりに中国兵が戦闘のため死亡。インド軍はヒマラヤ地方に前例のない速さで配備を増強した。

やがて中国軍は一部地域から押し戻され、両国は2カ所の戦闘地域を緩衝地帯とすることに合意。だが他地域ではその後も1年3カ月にわたり、沈静化に向けた進展がほぼなかった。両国の数万人の部隊は事実上の臨戦態勢を保ち、膠着状態に陥っている。

それでも、膠着の陰で事態は進展している。中国は引き続きヒマラヤ地方の勢力図を塗り替えようと、国境地域に624の村落を建設した。南シナ海で要塞のような人工島を造る戦略に似ている。

インドとの国境付近では交戦に備えて、新たなインフラも構築している。最近では、戦略上の要衝であるパンゴン湖を渡る橋を完成させた。さらにブータン国境の係争地にも道路や警備施設を建設。インド最北東部と内陸部を結ぶ回廊地域を俯瞰する、インドの「チキン・ネック(鶏の首)」と呼ばれる弱点を押さえようという狙いだ。

その上で中国は、インドに決断を迫ろうとしている。新しい現実、すなわち中国が一部地域を奪った状態での現状を受け入れるか、それとも中国が有利に展開できる全面戦争に突入するリスクを冒すのか──。

中国は1979年にベトナムを侵略した際の戦略的な過ちから学んだ。現在はあからさまな武力紛争に突入することは避け、領土獲得も含めて戦略的な目標の達成を段階的に進めている。

既に中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、こうしたサラミ戦略(小さな行動を積み重ね、いつの間にか相手国が領土を失わざるを得ないような戦略)によって南シナ海の地政学的地図を塗り替えてきた。その手法を陸上でも、すなわちインド、ブータン、ネパールに対しても効果的に展開している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師死亡と報道、トランプ氏「

ワールド

アングル:イラン攻撃に踏み切ったトランプ氏、外交政

ワールド

イラン情勢、木原官房長官「石油需給に直ちに影響との

ワールド

茂木外相、「核兵器開発は決して許されない」 米攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 3
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKIが語った創作と人生の覚悟
  • 4
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 5
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 8
    トランプがイランを攻撃する日
  • 9
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 10
    今度は「グリンダが主人公」...『ウィキッド』後編の…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中