最新記事

日本社会

「現場に行くのがエリートの証」の時代へ──リモートワーク考

2022年5月13日(金)07時05分
山本昭宏(神戸市外国語大学総合文化コース准教授)
ビジネスマン

metamorworks-iStock

<コロナ禍でリモートワークが普及したが、「ハイブリッドワーク」が進むなかで仕事の意義が変わっていく>

変異を繰り返す新型コロナ・ウイルスだが、私たちの社会はずいぶんとコロナと向き合う日常に慣れてきたようだ。リモートワークを廃止しつつある企業が少しずつ増えており、対面授業を推奨する大学も増えた。

それに対して「せっかく定着したリモートワークをもとに戻すなんて時代錯誤だ」という反論がある。

オンライン会議ツールのおかげで、通勤時間はなくなり、長い会議も減った。リモートワークのためのシステムとタスク管理ツールさえあれば、もう大きなオフィスは必要ない。オフィスの賃料だって削減できる......。

こうしたに反論は確かに頷ける部分がある。しかし、リモートワークを対面に戻すのは、本当に「時代錯誤」なのだろうか?

2020年に実施された調査では、リモートによる在宅勤務はオフィス勤務よりも生産性が低いと感じている人が82%にのぼり、生産性はオフィス勤務の60~70%というデータがある(※1)。

オンライン会議やオンライン授業では集中力が続かず、結局良いアイデアも出ないまま、徒労感だけが残るという経験をした人は多いだろう。

事実、「生産性」にこだわる経営者・管理職の目線に立つならば、オンライン会議やリモートワークよりも、従来の対面式の方が良いとも言えるのだ。実際、オフィスへの投資を進める企業もある。

2020年春、新型コロナ感染拡大にともない、グーグルは在宅勤務へ切り替えを早急に行なった(※2)。しかし2021年9月にニューヨークのオフィスビルを約2300億円で購入したことが話題になった。同社は2022年1月にも、ロンドンで約1140億円をかけてオフィスを取得している。

もちろん、完全な対面か、完全なリモートかという二者択一ではない。リモートでの「生産性」を確保するための技術や工夫も編み出されており、こうした技術や工夫を駆使して、対面とリモートを使い分ける「ハイブリッドワーク」を進めていくのだろう。

しかし、技術や工夫だけでは永遠に補えないものが、対面にはある。それは、アイデア創出、人間教育、人脈構築など、価値を生み出すコミュニケーションである。

振り返ってみると、ユルい雑談からアイデアが生まれるということはよくあった。新人教育の場で、こちらが逆に新たな気付きを得ることや、食事会で築いた人脈が仕事につながることもあった。

また、無駄だと思われがちな通勤も、自分を「仕事モード」に調整する時間になっていたという人もいるのではないだろうか。

つまり、これは「間(あいだ)」があったということに尽きる。私たちは無駄だと思われていた「間」から、価値を生んできたのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外貨準備のドル比率、第3四半期は56.92%に小幅

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、H200の対中輸

ワールド

25年の中国成長率、実際は2─3%台か 公式値の半

ビジネス

利下げしなければ、景気後退リスク増大─ミランFRB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中