最新記事

新型コロナウイルス

上海ロックダウンで「飢える」市民の叫び...なぜ、こんなに「無計画」だった?

Desperate in Shanghai

2022年5月10日(火)18時27分
トレイシー・ウェン・リウ(作家、ライター)
上海ロックダウン

居住区との境界に設置されたフェンスに施錠する作業員(5月4日) ALY SONGーREUTERS

<徹底したゼロコロナと、無計画で厳重すぎるロックダウンで市民の生活が麻痺。「飢餓」が迫る上海の人々の声>

集合住宅の敷地で山菜や木の根、タケノコなどを掘って食べないように──。3月末に上海の複数の植物学者が新華社通信の記事で、上海市民に対してこんな注意を促した。毒で命を落とす危険があるからだ。

実際に、集合住宅の共有スペースに生えていた山菜を食べて体調を崩したと訴える人も出ている。1958年夏から61年初頭にかけて大躍進運動の時代に中国が大飢饉に直面し、飢えた人々が木の皮を剝いで食べたという絶望的な光景さえ浮かんでくる。

上海で新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大規模なロックダウン(都市封鎖)が始まってから1カ月以上。ソーシャルメディアには絶望と悲劇があふれている。4月7日に中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で、妊娠6カ月の女性が2日分の食料しか残っていないから助けてほしいと隣人が投稿し、5万回以上シェアされた。

俳優のリー・リーチュンは配信した動画の中で、自宅にある食料は1日1食でぎりぎりだと語っている。ロックダウン前の食費は1日100元(約15ドル)足らずだったが、今は2000元でも1日分しか買えない──もし手に入るとすれば、だが。

4月12日には、華東師範大学第二村というコミュニティーの住人が助けを求める手紙がネットで拡散された。4月1日に封鎖が始まって以来、コミュニティーに物資が届いたのはわずか1回で、一人暮らしの高齢者は食べるものも水もないと訴えていた。

問題は解決どころか累積している

似たような話は至る所にある。上海のロックダウンの過酷さを白黒の映像と音声でつづる動画「ボイス・オブ・エイプリル(4月の声)」が中国国内のプラットフォームに投稿されて注目を集めたが、検閲で削除された。

場当たり的な封鎖から始まったロックダウンは厳重になる一方で、皮肉なことに、問題を解決するというより累積させている。

中国は2020年に新型コロナの感染拡大が始まって以来、「ゼロコロナ」を掲げて厳格な「ゼロトレランス(寛容ゼロ)」政策を取ってきた。しかし、その中で上海は常に、より緩やかで「精密な予防」戦略の最前線にいた。

今年3月中旬にも複数の報道が、「ノーロックダウン、ノーストップ」の手法はパンデミックの経済および社会発展への影響を最小限に抑え、上海のソフトパワーが発揮されていると自画自賛していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中