ロックダウンが生んだ人に優しい食料品店
“We Run a Community Grocery”
支えたい 「パンデミックは分断を生んだ」と言う筆者 THE MESSAGE TRUST
<パンデミックでさらに生活が苦しくなった貧困層向けにカートを一杯にしても3ポンドで済む店を開いた >
私たちが運営する食料品店の構想が生まれた日を忘れることはない。2020年3月23日、ジョンソン英首相が新型コロナウイルス感染拡大防止のためにロックダウン(都市封鎖)を発表した日だ。
私たちの慈善団体「メッセージ・トラスト」の活動も全てが停止した。大半の人々と同じく、私もその後の数週間は先の見えない不安の中で混乱していた。
英マンチェスターにある私の家の近くには、約11万人が住むヨーロッパ最大級の公営住宅プロジェクト「ウィゼンショー」がある。私たちはウィゼンショーの貧しい家庭を支援しているが、ロックダウンのために子供が学校に行けなくなり、親たちに新たな苦労が加わったことを知った。
特に大変なのは、子供がそれまで無償の学校給食を利用していた場合だ。私たちはケータリングキッチンで料理を作り、困っている家庭に配り始めた。数週間のうちに6万食を配るようになった。
「暖房も食事も」を可能に
メッセージ・トラストで共に働く息子と一緒に、ケータリングの食材を求めて近所の食料庫へ行ったことがある。そこは貧困層向けのフードバンクのようではなく、農家の直売所に似ていた。スーパーが余った食料品を寄付し、住民は3ポンド(約490円)を払えば持ち帰れる。帰り道で息子が言った。「これ、僕たちにもやれるんじゃない?」
筆者ら親子が新しく作った食料品店 THE MESSAGE TRUST
新しい食料品店は、メッセ ージ・トラストの本部に造ることに決めた。健康な食生活やIT利用についての講座も開く計画を立てた。
プロジェクトは息子が中心となり、店の設計も彼が担当した。1カ月後、「メッセージ・コミュニティー・グローサリー」の1号店が開店した。
初日の朝は緊張で胸がつかえたが、1日で優に100人を超える人が訪れた。絶望の中で生きる人がいる。借金苦から自殺を考えた人がいる。 「heat or eat(暖房と食事のどちらを選ぶか)」という選択を迫られる家族もいる。
私たちは店に来た人たちに 受けられる支援を全て説明する。生活に役立つ講座は 15コース用意した。講座を受けなくても、希望を呼び起こす雰囲気のカフェでくつろげる。