最新記事

地域支援

ロックダウンが生んだ人に優しい食料品店

“We Run a Community Grocery”

2022年5月2日(月)13時49分
アンディ・ホーソーン(英慈善団体「メッセージ・トラスト」創設者 )

支えたい 「パンデミックは分断を生んだ」と言う筆者  THE MESSAGE TRUST

<パンデミックでさらに生活が苦しくなった貧困層向けにカートを一杯にしても3ポンドで済む店を開いた >

私たちが運営する食料品店の構想が生まれた日を忘れることはない。2020年3月23日、ジョンソン英首相が新型コロナウイルス感染拡大防止のためにロックダウン(都市封鎖)を発表した日だ。

私たちの慈善団体「メッセージ・トラスト」の活動も全てが停止した。大半の人々と同じく、私もその後の数週間は先の見えない不安の中で混乱していた。

英マンチェスターにある私の家の近くには、約11万人が住むヨーロッパ最大級の公営住宅プロジェクト「ウィゼンショー」がある。私たちはウィゼンショーの貧しい家庭を支援しているが、ロックダウンのために子供が学校に行けなくなり、親たちに新たな苦労が加わったことを知った。

特に大変なのは、子供がそれまで無償の学校給食を利用していた場合だ。私たちはケータリングキッチンで料理を作り、困っている家庭に配り始めた。数週間のうちに6万食を配るようになった。

「暖房も食事も」を可能に

メッセージ・トラストで共に働く息子と一緒に、ケータリングの食材を求めて近所の食料庫へ行ったことがある。そこは貧困層向けのフードバンクのようではなく、農家の直売所に似ていた。スーパーが余った食料品を寄付し、住民は3ポンド(約490円)を払えば持ち帰れる。帰り道で息子が言った。「これ、僕たちにもやれるんじゃない?」

220503p67_wrc02.jpeg
筆者ら親子が新しく作った食料品店     THE MESSAGE TRUST

新しい食料品店は、メッセ ージ・トラストの本部に造ることに決めた。健康な食生活やIT利用についての講座も開く計画を立てた。

プロジェクトは息子が中心となり、店の設計も彼が担当した。1カ月後、「メッセージ・コミュニティー・グローサリー」の1号店が開店した。

初日の朝は緊張で胸がつかえたが、1日で優に100人を超える人が訪れた。絶望の中で生きる人がいる。借金苦から自殺を考えた人がいる。 「heat or eat(暖房と食事のどちらを選ぶか)」という選択を迫られる家族もいる。

私たちは店に来た人たちに 受けられる支援を全て説明する。生活に役立つ講座は 15コース用意した。講座を受けなくても、希望を呼び起こす雰囲気のカフェでくつろげる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中