最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ・ゼレンスキーの演説を支える「38歳スピーチライター」のスゴさ

2022年5月14日(土)16時10分
大門小百合(だいもん・さゆり) *PRESIDENT Onlineからの転載

結局、両国のトップはそれぞれ、広島と真珠湾を訪問したのだが、この2つの出来事が、どれほど戦争の傷跡として両国国民の心に深く刻まれているかを、象徴しているような気がしてならない。

イギリス議会ではスタンディングオベーション

3月に行われた、イギリス議会の演説も話題になった。イギリス議会では、外国の首脳による演説はゼレンスキー大統領が初めて。彼は、イギリスのチャーチル元首相が、第2次世界大戦でナチスドイツと戦った時に行った歴史的な演説、「我々は海外で戦う、我々は水際で戦う、我々は平原と市街で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない」になぞらえ、次のように話した。

「我々は海で、空で戦い、どれだけ犠牲を出しても領土を守る。森の中で、野原で、海岸で、都市や村で、通りで、丘でも戦い続ける」

イギリス人の心を打ったのは言うまでもない。議会はスタンディングオベーションで沸き、涙する議員もいたという。

日本では「原発」「サリン」「津波」「桃太郎」

日本では、広島・長崎に言及するのではないかと思われたが、実際は盛り込まれなかった。原爆を落とした側であるアメリカ人の心を、逆なですることを懸念したのかもしれない。

ゼレンスキー大統領は、自国のチェルノブイリ原発に触れ、日本の福島第一原発の経験を重ね合わせるようにこう表現した。

「過去に大惨事が起きた原発がどうなっているか、想像してみてください。破壊された原子炉は覆われ、核廃棄物の貯蔵施設があります。ロシアはこの施設をも戦場へと変えました」

ロシア軍がウクライナの化学工場を攻撃したことについても触れ、「我々は、特にサリンなどの化学兵器による攻撃の可能性について、警告を受けています」と述べている。

そして、東日本大震災を意識してか、ロシアの侵略を「侵略の津波(tsunami)」と表現した。しかし、他の国のスピーチにあった、武器供与などの具体的な要求は、日本での演説には盛り込まれなかった。

4月に記者会見したウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使は、これらの演説は相手国の文化、法律、政治的な環境をすべて理解したうえで準備され、使われる言葉も慎重に選ばれたと述べている。「もちろん、(憲法第)9条は認識している。日本の政治的環境、とりわけ日本の国民の戦争に対する姿勢についても、よく理解して選ばれた言葉だった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米印首脳が電話会談、関税導入後3回目 二国間関係な

ワールド

トルコ中銀が150bp利下げ、政策金利38% イン

ワールド

ウクライナ、米国に和平案の改訂版提示 領土問題の協

ビジネス

米新規失業保険申請、約4年半ぶり大幅増 季調要因の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中