ウクライナ・ゼレンスキーの演説を支える「38歳スピーチライター」のスゴさ
結局、両国のトップはそれぞれ、広島と真珠湾を訪問したのだが、この2つの出来事が、どれほど戦争の傷跡として両国国民の心に深く刻まれているかを、象徴しているような気がしてならない。
イギリス議会ではスタンディングオベーション
3月に行われた、イギリス議会の演説も話題になった。イギリス議会では、外国の首脳による演説はゼレンスキー大統領が初めて。彼は、イギリスのチャーチル元首相が、第2次世界大戦でナチスドイツと戦った時に行った歴史的な演説、「我々は海外で戦う、我々は水際で戦う、我々は平原と市街で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない」になぞらえ、次のように話した。
「我々は海で、空で戦い、どれだけ犠牲を出しても領土を守る。森の中で、野原で、海岸で、都市や村で、通りで、丘でも戦い続ける」
イギリス人の心を打ったのは言うまでもない。議会はスタンディングオベーションで沸き、涙する議員もいたという。
日本では「原発」「サリン」「津波」「桃太郎」
日本では、広島・長崎に言及するのではないかと思われたが、実際は盛り込まれなかった。原爆を落とした側であるアメリカ人の心を、逆なですることを懸念したのかもしれない。
ゼレンスキー大統領は、自国のチェルノブイリ原発に触れ、日本の福島第一原発の経験を重ね合わせるようにこう表現した。
「過去に大惨事が起きた原発がどうなっているか、想像してみてください。破壊された原子炉は覆われ、核廃棄物の貯蔵施設があります。ロシアはこの施設をも戦場へと変えました」
ロシア軍がウクライナの化学工場を攻撃したことについても触れ、「我々は、特にサリンなどの化学兵器による攻撃の可能性について、警告を受けています」と述べている。
そして、東日本大震災を意識してか、ロシアの侵略を「侵略の津波(tsunami)」と表現した。しかし、他の国のスピーチにあった、武器供与などの具体的な要求は、日本での演説には盛り込まれなかった。
4月に記者会見したウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使は、これらの演説は相手国の文化、法律、政治的な環境をすべて理解したうえで準備され、使われる言葉も慎重に選ばれたと述べている。「もちろん、(憲法第)9条は認識している。日本の政治的環境、とりわけ日本の国民の戦争に対する姿勢についても、よく理解して選ばれた言葉だった」