最新記事

フェイクニュース

大統領選はデマとの闘い フィリピンの選挙、「主戦場」はSNS

2022年4月30日(土)16時30分

ネットに溢れるデマ

ロブレド氏の訴えは実を結びつつあるようだ。

メディア各社のほか、大学や市民団体、弁護士や教会の指導者たちによって、連携してファクトチェックを試みる仕組みがいくつも生まれている。選挙関連のデマに対抗する前例のない取り組みだ。

こうしたファクトチェック機関の1つ「チェックPh」によれば、ネット上に流れる間違った情報の半分近くは、ロブレド氏を標的とし、マルコス氏を利するものだという。

マルコス陣営の広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

「私たちは、嘘がどれだけのダメージをもたらすかを目にしてきた。信頼に足る事実がそろわなければ、信頼に足る選挙はありえない」。約150の団体が協働する「ファクトファーストPH」に参加するデジタルニュースサイト「ラプラー」のマリア・レッサ最高経営責任者(CEO)はこう指摘する。

レッサ氏は、悪者たちに立ち向かうスーパーヒーローが結集するマーベル・スタジオ制作の映画に喩え、「こうした『アベンジャーズ・アッセンブル』的な瞬間には、団結して立ち上がることが力になる。事実を求めて立ち上がらなければどうなってしまうか、私たちは知っている」と語る。

ノーベル平和賞受賞者でもあるレッサ氏は、2016年の大統領選挙で、ロドリゴ・ドゥテルテ候補に有利なデマがソーシャルメディア上で拡散していることについて警告を繰り返してきた。マルコス氏はこの時の副大統領選挙でロブレド氏に敗れた。

ドゥテルテ現大統領の娘であるサラ・ドゥテルテ氏は今回、マルコス氏とタッグを組んで副大統領選挙に出馬している。

ハーバード大学で偽情報に関する研究をしているジョナサン・コーパスオング准教授は、マルコス陣営は豊富な資金を駆使してロブレド候補を攻撃し、影響力も強いと分析する。

コーパスオング准教授は、特に影響力が強いのは動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」だと指摘する。より遊び心に富むフォーマットで、フィリピンの有権者の半数以上を占める若者世代に親しまれているからだ。また、フェイスブックとユーチューブも、デマを拡散する主要なチャネルになっているという。

「2016年の選挙の際は、フィリピンの有権者はフェイクニュースとネット上の『荒らし』たちへの警戒を怠っていた。そういう用語さえ知らなかった。しかし今は、法律によってある程度規制されているし、全般的に認識が高まってきている」とコーパスオング准教授。

「だが、偽情報を利用した選挙運動は広がり、当然のように行われている。ファクトチェックする側が把握する頃には、すっかり拡散されている。レベルの低い荒らし投稿を追跡するのはモグラ叩きゲームのようなもので、背後にいる有力な黒幕が責任を問われることはない」と同准教授は付け加える。

ティックトックにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中