大統領選はデマとの闘い フィリピンの選挙、「主戦場」はSNS
ネットに溢れるデマ
ロブレド氏の訴えは実を結びつつあるようだ。
メディア各社のほか、大学や市民団体、弁護士や教会の指導者たちによって、連携してファクトチェックを試みる仕組みがいくつも生まれている。選挙関連のデマに対抗する前例のない取り組みだ。
こうしたファクトチェック機関の1つ「チェックPh」によれば、ネット上に流れる間違った情報の半分近くは、ロブレド氏を標的とし、マルコス氏を利するものだという。
マルコス陣営の広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
「私たちは、嘘がどれだけのダメージをもたらすかを目にしてきた。信頼に足る事実がそろわなければ、信頼に足る選挙はありえない」。約150の団体が協働する「ファクトファーストPH」に参加するデジタルニュースサイト「ラプラー」のマリア・レッサ最高経営責任者(CEO)はこう指摘する。
レッサ氏は、悪者たちに立ち向かうスーパーヒーローが結集するマーベル・スタジオ制作の映画に喩え、「こうした『アベンジャーズ・アッセンブル』的な瞬間には、団結して立ち上がることが力になる。事実を求めて立ち上がらなければどうなってしまうか、私たちは知っている」と語る。
ノーベル平和賞受賞者でもあるレッサ氏は、2016年の大統領選挙で、ロドリゴ・ドゥテルテ候補に有利なデマがソーシャルメディア上で拡散していることについて警告を繰り返してきた。マルコス氏はこの時の副大統領選挙でロブレド氏に敗れた。
ドゥテルテ現大統領の娘であるサラ・ドゥテルテ氏は今回、マルコス氏とタッグを組んで副大統領選挙に出馬している。
ハーバード大学で偽情報に関する研究をしているジョナサン・コーパスオング准教授は、マルコス陣営は豊富な資金を駆使してロブレド候補を攻撃し、影響力も強いと分析する。
コーパスオング准教授は、特に影響力が強いのは動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」だと指摘する。より遊び心に富むフォーマットで、フィリピンの有権者の半数以上を占める若者世代に親しまれているからだ。また、フェイスブックとユーチューブも、デマを拡散する主要なチャネルになっているという。
「2016年の選挙の際は、フィリピンの有権者はフェイクニュースとネット上の『荒らし』たちへの警戒を怠っていた。そういう用語さえ知らなかった。しかし今は、法律によってある程度規制されているし、全般的に認識が高まってきている」とコーパスオング准教授。
「だが、偽情報を利用した選挙運動は広がり、当然のように行われている。ファクトチェックする側が把握する頃には、すっかり拡散されている。レベルの低い荒らし投稿を追跡するのはモグラ叩きゲームのようなもので、背後にいる有力な黒幕が責任を問われることはない」と同准教授は付け加える。
ティックトックにコメントを求めたが、回答は得られなかった。