最新記事

エネルギー

「日本を産油国に」と宣言して顰蹙かった藻類バイオマスエネルギー 今、再び注目される3つの理由

2022年4月2日(土)11時40分
渡邉 信(筑波大学 生命環境系 研究フェロー、MoBiolテクノロジーズ会長) *PRESIDENT Onlineからの転載

そんな中で、下水処理場で下水を藻に浄化させ、同時に繁殖させ、それを使うという方法の実現に向かって動き出したわけです。下水処理と藻類の培養を統合して燃料生産にもっていかないと、コストの問題、環境負荷の問題から実現困難だということは前から言われていました。

ただ、日本のような狭い土地で、温度の変動、光の変動を考えながら、エネルギー収支を適正化するのはなかなか難しかったのです。

藻には、光合成で増える藻、光合成ができなくなり有機物から炭素源を摂って増える藻、そして、その両方を行う藻の3種類があります。私が注目したのは、この両方を行う藻「混合栄養藻類」でした。

EUの有力科学誌に論文が掲載される

reuters__20220401201944.jpg

混合栄養藻類は深さ1.4メートルのタンクでも増えた。 写真=渡邉信研究室

下水処理では、有機物や窒素、リンを取り除くために膨大なエネルギーとコストをかけています。その有機物や窒素、リンとCO2を取る過程を藻が行い、下水をきれいにする。ただ、これが単一種のエリート藻類(増殖がよく、オイル生産が高い種)だと、環境の変動により好ましくない環境では急激に増殖が悪化するので、バイオマス生産が安定しない。

そこで、単一のエリート藻類ではなくて、その土地土地に住んでいる、いわゆる雑藻類、土着の藻類を使ってみたら生産が非常に安定していたのです。

また、光合成だけで増える藻は、深さ0.2メートル以内でないと増殖が難しいのですが、混合栄養藻類は深さ1.4メートルのタンクでも増えた。これによって藻類による単位面積あたりの下水処理量も格段に変わり、つまりは培養面積の問題も解決され、より現実化してきたのです。

具体的には、茨城県西部の小貝川東部浄化センターに藻類培養装置を設置し、下水の一次処理水を使って藻を培養、実証実験をしました。そして、1.4メートルの高深度で1年間実験を続け、その主要な成果を紹介したレビュー論文を、EUの国際的科学誌「energies」に投稿しました。すると、2021年10月20日、論文受理の連絡が届いたのです。

論文のタイトルは「Biocrude Oil Production by Integrating Microalgae Polyculture and Wastewater Treatment:Novel Proposal on the Use of Deep Water-Depth Polyculture of Mixotrophic Microalgae」(微細藻類ポリカルチャーと廃水処理を融合したバイオ原油生産:混合栄養藻類の高深度ポリカルチャーの新規提案)。論文では「混合栄養藻類」が下水処理場でどれだけ育ち、それを原油化した場合、どうなるかを試算しました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、シカゴへの州兵派遣差し止め維持 政権の申

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、GDP好調でもFRB利下げ

ワールド

米政権の「テックフォース」、約2.5万人が参加に関

ビジネス

カナダ中銀、次の一手「見通し困難」 不確実性高い=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中