最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ戦争は終わった、アメリカ抜きで

The Ukraine War Is Over But the Biden Administration Hasn't Noticed

2022年3月31日(木)19時56分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

一方、バイデン大統領は29日にホワイトハウスで行われた記者会見で、ロシア軍の作戦縮小については、その裏にどんな意図があるのか、今後の動きを慎重に見守る必要があると述べた。

「今はまだ何とも言えない。彼らがどんな行動を取るか見極めるまでは判断を差し控える」

ブリンケン国務長官も、ロシアは「またもや人々の目を逸らし、欺こうとしている」ようだと疑念を露わにした。キーウ攻略の手を緩める代わりに、南部の制圧に兵力を集中させ、その後に再び首都を目指す可能性がある、というのだ。

2月24日の侵攻開始以来、ロシア軍の苦戦ぶりとウクライナ軍の強固な抵抗は、軍事と情報の専門家を驚かせてきた。

トッド・ウォルターズ米欧州軍司令官は29日、米上院軍事委員会の公聴会で、ロシアの意図を読み損ね、ロシア軍の能力を過大評価していたことは、嘆かわしい「情報ギャップ」であり、徹底的な検証が必要だと述べた。

ウォルターズによれば、ロシア軍は物量ではウクライナ軍より圧倒的に有利で、しかも既に兵力の70〜75%をウクライナに投入しているにもかかわらず大苦戦しており、もはや余力はほとんど残っていない。精密誘導弾は既に弾切れとなり、無誘導爆弾を連発するありさま。本国から続々と補給部隊が送り込まれているが、最新型の戦車やその他の兵器をウクライナに投入することを、ロシアはためらっているという。

極超音速巡航ミサイルの使用については一部にエスカレーションとの見方もあったが、ウォルターズは、ウクライナを実験場にした新たな兵器の「能力を誇示」だったとの見方を示した。「実験が成功だったとは思わない」

またウクライナ軍部隊は「きわめて学習が速く」、ロシア軍を撃退することもできるかもしれないと「楽観的」に考えるようになっている、とも語った。

ウクライナ軍参謀本部は2週間前から、ロシア軍の各部隊が「大都市を制圧する」という目標を断念しつつあると指摘してきたが、ウォルターズも「まさにその通りのことを目撃している」と述べた。

ベラルーシ軍部隊が帰還

アメリカの有識者たちは、ロシア側の消耗や破たんを示す兆候はほかにもあると指摘する。米空軍の元高官で、現在は防衛関連の事業を請け負う人物は、「ロシアの多くの兵士は食料、燃料から士気まで使い果たし、ロシア軍はそれを戦闘能力のある集団と入れ替えることができていない」と本誌に語った。

ロシア軍は疲弊した地上部隊を温存するため、「非誘導型の」無差別爆弾や長距離ミサイルを多用した。迫撃砲や多連装ロケット砲の発射頻度を間引きさえした、と指摘する。「弾薬を節約するためだ」と、元高官は言う。

ベラルーシ軍の複数の部隊が本拠地に帰還したことが確認されたという事実も、ロシアの戦略転換を伺わせるものだ。前述のDIAの高官は、「ウクライナ当局は何週間も前から、ベラルーシの参戦を警戒してきたが、今ではその可能性は低いように思える」と語った。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2月24日にウクライナでの「特別軍事作戦」の実施を発表した際、その目的について、ロシアとの国境沿いにあるウクライナ東部のドンバス地方に多く暮らしている、ロシア系住民を守ることだと説明していた。彼はまた、同作戦は「ウクライナの非武装化と非ナチ化のため」だとも述べていた。

「この作戦の目的は、8年間にわたってウクライナの政権に虐げられ、ジェノサイド(集団虐殺)に遭ってきた人々を保護することだ」とプーチンは主張した。

侵攻当初、ウクライナ全土にわたるより広い領土の制圧を目指すかに見えたロシア軍は、ドンバス地方での支配を確固たるものにすることに重点をシフトさせてきた。西側の複数の有識者はその狙いは、ウクライナを朝鮮半島のように恒久的に分断支配することではないかと推測する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

安保環境に一層厳しさ、「しっかり防衛強化」と小泉防

ワールド

バークレイズ、米自動車ローン会社関連で費用1.1億

ワールド

米ロ首脳会談の準備進行中、大きな障害ない=ロ外務次

ワールド

アングル:メローニ伊首相の3年間、成長より安定重視
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中