最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ戦争は終わった、アメリカ抜きで

The Ukraine War Is Over But the Biden Administration Hasn't Noticed

2022年3月31日(木)19時56分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

一方ロシア側は、キーウとチェルニヒウにおける軍事活動を縮小すると約束した。キーウの150キロ北東に位置するチェルニヒウはウクライナ軍の北部作戦司令部がある軍事都市で、ロシア軍が激しい攻撃を続けてきた。地元の自治体職員によると、人口30万人の半分以上が既に避難したという。

それでもロシア軍はこの小さな都市を制圧できず、キーウ周辺に大部隊を展開させながらも、この大都市の中心部に進軍もできていない。東部ではウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)もロシア軍の猛攻に耐え続け、南部に位置する第4の都市オデッサも陥落をまぬがれている。その他スムイ、ドニプロ、サボリージャ、ミコライウなどの主要都市もウクライナ側が死守していて、ロシア軍の凄まじい無差別攻撃で廃墟と化したマリウポリもかろうじて持ちこたえている。

「ロシア軍は部隊を再編し、再補給を試みているが、ウクライナ軍は効果的な反撃を試み、ロシア軍を押し返している」と、キーウの北と東、さらに南部の戦況についてDIAの高官は言う。ロシア軍は唯一制圧した南部の都市ヘルソン近郊の空軍基地を拠点にし、南部全域への攻撃を強化する作戦を進めていたが、ここでもウクライナ軍の攻撃で将官が次々に死亡するなど、ロシア軍は作戦変更を余儀なくされた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日、国民に向けた演説でキーウ近郊のイルピンを奪還したと発表し、慎重ながらも楽観的な見通しを語った。「今はバランスの取れた賢明な視点で状況を見守る必要がある。戦果が上がっても過剰に興奮せず......戦い続けなければならない......今こそ冷静さが求められる。過大な期待は禁物だ」

「歩み寄り」はポーズか

ロシアの交渉団を率いるウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官はイスタンブールで交渉を終えた後、ウクライナが「十分に練り上げた明確なプラン」を提示したことに安堵したと語った。ウクライナ側の提案は「精査した上で、国の指導部に報告する」という。

「彼らの提案に対する、われわれの提案も示すつもりだ」と、メジンスキーはその後にロシアの国営メディアRTに述べている。

メジンスキーはまた、ロシアはウクライナ北部での軍事作戦で、ウクライナ側に「大きく2歩」歩み寄ったと語り、ゼレンスキーとプーチンの首脳会談を計画よりも早期に準備する考えも明らかにした。

さらに、ウクライナとの合意にはロシアが併合したクリミアと「ドネツクとルガンスクという親ロ派地域」の処遇は含まれず、これらの地域については2国間の「交渉を通じて、外交的に」解決を探ることになる、とも述べた。

メジンスキーは、北部における作戦縮小で、ロシアが「ウクライナに歩み寄った」ことを認めつつも、「これは停戦ではない」と釘を刺し、合意に至るには「まだ長い道のりがある」と述べて楽観論を封じ込めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、大規模人員削減加速へ 最高裁の判断受け=関

ビジネス

ECB追加利下げ、ハードル非常に高い=シュナーベル

ビジネス

英BP、第2四半期は原油安の影響受ける見込み 上流

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中