日本企業よ、もういい加減「70年代の働き方」をアップデートしよう
MAKING JAPAN PRODUCTIVE AGAIN
女性首長が改革の旗振り役に
とはいえ長く受け継がれてきた慣行を変えるのは容易ではないし、日本では構造改革は根強い抵抗に遭ってなかなか進まない。ただ幸いにも、女性のリーダー、特に自治体の女性首長の試みには期待が持てる。日本でも21世紀に相応しい労働文化の確立に向けて、新たな動きが芽生えているようだ。
東京都の小池百合子知事は防衛相、首相補佐官(国家安全保障担当)など政府の要職を歴任した女性リーダーの代表格だ。エジプトのカイロ・アメリカン大学で学んだ国際派で、通訳、ニュースキャスターとしても活躍し、多様な労働文化を経験してきた。それを生かし、小泉純一郎元首相の下で環境相を務めた時代には猛暑の最中にもスーツにネクタイという不合理な慣行に異議を申し立て、「クールビズ」推進の旗を振った。
高橋はるみ元北海道知事も重要な改革を先導した。北海道は夏の日照時間が長い。始業・終業時刻を早めるサマータイム制を導入すれば、省エネ効果もあるし、終業後の時間を有効に使える。だが日本ではサマータイム制の導入には消極的な声が多い。そこで高橋は手始めに北海道庁での試験的導入に踏み切った。
このように女性リーダーが働き方改革で中心的な役割を果たすのは訳がある。彼女たちは政界入りする時点で既に伝統の壁を打ち破ってきた人たちだ。
加えて、日本では働く女性は男性以上に困難を抱えているが、彼女たちはそれをよく知っている。子育てや老親の介護で女性が男性よりはるかに大きな役割を担う現状では、より柔軟な働き方ができるかどうかが、仕事を続けるか辞めるか、女性たちの決断の鍵を握る。労働力人口が急速に減りつつある日本では、女性の就労を支える国の政策や企業の取り組みの強化は、経済全体の底上げに大きな効果を発揮する。
生産性の向上だけでなく、人々が健康で幸福に暮らすためにも、日本は前時代的な働き方をアップデートしなければならない。パンデミック後のより柔軟な就労形態の導入、デジタル化の推進、さらには北海道庁方式のサマータイム制をまずは東京で試行するなど、より広く採り入れること。それらが当面の課題だろう。ささやかな変化のようだが、こうした試みを通じてより生産性の高い活気あふれる経済活動が可能になり、日本は豊かな未来に向けて確かな一歩を踏み出せるはずだ。
浜田宏一 KOICHI HAMADA
経済学博士、米エール大学名誉教授。内閣府経済社会総合研究所長などを経て、安倍内閣で情報提供や助言を行う内閣官房参与を務めた。近著に『21世紀の経済政策』(講談社刊)。