最新記事

日本企業

日本企業よ、もういい加減「70年代の働き方」をアップデートしよう

MAKING JAPAN PRODUCTIVE AGAIN

2022年3月30日(水)17時31分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)

女性首長が改革の旗振り役に

とはいえ長く受け継がれてきた慣行を変えるのは容易ではないし、日本では構造改革は根強い抵抗に遭ってなかなか進まない。ただ幸いにも、女性のリーダー、特に自治体の女性首長の試みには期待が持てる。日本でも21世紀に相応しい労働文化の確立に向けて、新たな動きが芽生えているようだ。

東京都の小池百合子知事は防衛相、首相補佐官(国家安全保障担当)など政府の要職を歴任した女性リーダーの代表格だ。エジプトのカイロ・アメリカン大学で学んだ国際派で、通訳、ニュースキャスターとしても活躍し、多様な労働文化を経験してきた。それを生かし、小泉純一郎元首相の下で環境相を務めた時代には猛暑の最中にもスーツにネクタイという不合理な慣行に異議を申し立て、「クールビズ」推進の旗を振った。

高橋はるみ元北海道知事も重要な改革を先導した。北海道は夏の日照時間が長い。始業・終業時刻を早めるサマータイム制を導入すれば、省エネ効果もあるし、終業後の時間を有効に使える。だが日本ではサマータイム制の導入には消極的な声が多い。そこで高橋は手始めに北海道庁での試験的導入に踏み切った。

このように女性リーダーが働き方改革で中心的な役割を果たすのは訳がある。彼女たちは政界入りする時点で既に伝統の壁を打ち破ってきた人たちだ。

加えて、日本では働く女性は男性以上に困難を抱えているが、彼女たちはそれをよく知っている。子育てや老親の介護で女性が男性よりはるかに大きな役割を担う現状では、より柔軟な働き方ができるかどうかが、仕事を続けるか辞めるか、女性たちの決断の鍵を握る。労働力人口が急速に減りつつある日本では、女性の就労を支える国の政策や企業の取り組みの強化は、経済全体の底上げに大きな効果を発揮する。

生産性の向上だけでなく、人々が健康で幸福に暮らすためにも、日本は前時代的な働き方をアップデートしなければならない。パンデミック後のより柔軟な就労形態の導入、デジタル化の推進、さらには北海道庁方式のサマータイム制をまずは東京で試行するなど、より広く採り入れること。それらが当面の課題だろう。ささやかな変化のようだが、こうした試みを通じてより生産性の高い活気あふれる経済活動が可能になり、日本は豊かな未来に向けて確かな一歩を踏み出せるはずだ。

©Project Syndicate

KOICHI_HAMADA_profile.jpg浜田宏一 KOICHI HAMADA
経済学博士、米エール大学名誉教授。内閣府経済社会総合研究所長などを経て、安倍内閣で情報提供や助言を行う内閣官房参与を務めた。近著に『21世紀の経済政策』(講談社刊)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、個人の買いが支え 主力株

ビジネス

小売販売額11月は前年比1.0%増、医薬・自動車な

ワールド

米、ナイジェリアでイスラム過激派空爆 「キリスト教

ビジネス

鉱工業生産11月は2.6%低下、自動車・リチウム電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中