最新記事

ウクライナ

「殲滅」戦略の恐ろしさを知る国なのに、プーチンに弱腰なイスラエルに物申す

ISRAEL’S CRAVEN NEUTRALITY

2022年3月23日(水)17時34分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
イスラエルのウクライナ支援デモ

テルアビブで行われたウクライナ支援デモ Corinna Kern-Reuters

<ホロコーストを生き延びた人々の国であるイスラエルが、なぜプーチンがゼレンスキーを「ナチ」と呼ぶことを許せるのか。ロシアに遠慮はやめよ>

ロシアによるウクライナ侵攻以来、イスラエルは仲介役を気取って各国と協議してきた。この戦争の道義的問題と現実政治のバランスを取っているつもりらしいが、その試みは失敗に終わっている。

確かにイスラエルは、国連総会の緊急特別会合で、ロシアに即時撤退を求める決議に賛成票を投じたし、ウクライナにかなりの人道援助をしてきた。だが、ロシアを公然と批判することは拒否してきたし、ウクライナのゼレンスキー大統領がクネセト(イスラエル国会)で演説をすることも、当初は断った。

それもこれも、ロシアのプーチン大統領の怒りを買うのが怖いからだ。なにしろプーチンは、イスラエルが隣国シリアにあるイランの拠点を攻撃することを黙認してくれている(イランはイスラエルにとって地政学上の脅威であり、レバノンの武装組織ヒズボラを使ってシリアに拠点を築いている)。イスラエル政府はそれを、アメリカやヨーロッパと足並みをそろえて、プーチンの蛮行に立ち向かうことよりも重要と考えたらしい。

だが、イランの脅威に対処する方法はほかにもあるはずだ。破綻しかけた核合意も再建交渉が合意間近とされる(ロシアが最近態度を変えて雲行きが怪しくなっているが)。それにロシアにとってイスラエルは、自らがシリアを事実上支配する上で厄介な存在であるイランの影響力をそいでくれる、都合のいい「外注先」にすぎない。

独裁国家に屈しない勇敢なイスラエル

ロシアのウクライナ市民に対する攻撃が日に日に悪化するなか、イスラエルが模様眺めのような態度を取り続けることは断じて許されない。ウクライナの英雄的な指導者であるゼレンスキーはユダヤ系であり、ヘブライ語でユダヤ人に直接助けを訴えた。イスラエルの人々は、殲滅戦略の標的になるとはどういうことかを、誰よりもよく知っているはずだ。

ウクライナは、独裁国家の攻撃に屈しない勇敢な民主主義国家だ。これはまさに、アラブ諸国に囲まれたイスラエルが長年主張してきたことだ。また、イスラエルはナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を生き延びた人々の国だ。それなのになぜ、プーチンがゼレンスキーのことを「ナチ」と呼ぶことを許せるだろう。しかもゼレンスキーの親戚は、ナチスとの戦いで命を落としている。

イスラエルは、この戦争の本質も認識する必要がある。これはアメリカのグローバルな重点課題を再編する分水嶺的な戦争だ。西側によるロシア封じ込めは、ヨーロッパを超えて中東でも展開される必要がある。イスラエルが留意すべきなのは、権威主義的なトルコのエルドアン大統領でさえも、ロシアと西側陣営のどちらに味方するか、態度を明確にしていることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中