最新記事

サイエンス

「腸内細菌が接合によって遺伝情報を共有し合っている」との研究結果

2022年3月18日(金)16時46分
松岡由希子

大腸菌が接合して遺伝情報をやり取りする Courtesy of Charles C. Brinton Jr. (NIH)

<細胞同士が接続して遺伝情報をやり取りする「接合」によって、腸内細菌がビタミンB12を吸収する能力を共有しあっている>

腸内細菌はビタミンB12を必要とし、これがなければほとんどの種類の細胞が機能しない。このほど、細胞同士が接続して遺伝情報をやり取りする「接合」によって、腸内細菌がビタミンB12を吸収する能力を共有しあっていることが明らかとなった。

大腸菌が「細菌の接合」によって遺伝情報を共有している

米国の分子生物学者ジョシュア・レーダーバーグ博士は、大腸菌が「細菌の接合」によって遺伝情報を共有していることを1946年に初めて示した。DNAを受け渡すための「性線毛」を細菌が形成し、これを他の細胞に付着させ、遺伝情報を届けることによって、遺伝子の水平伝播が起こる。このようなプロセスを通じて、抗生物質に対する耐性遺伝子が共有され、抗生物質耐性が広がると考えられてきた。

米カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは、2021年12月28日にオープンアクセス誌「セル・リポーツ」で研究論文を発表し、このような遺伝子の水平伝播は抗生物質耐性だけに限られないことを明らかにした。

研究チームは、腸内細菌のひとつ「バクテロイデス属」を用いて実験を行った。バクテロイデス属はヒトの大腸に常在し、サツマイモや豆、全粒穀物などの複雑な炭水化物を分解する働きを持つ。

実験室実験では、ビタミンB12を運搬できる細菌とそうでない細菌をペトリ皿に一緒に置いた。すると、ビタミンB12を運搬できる細菌が性線毛を形成して、接合伝達(細菌が接合によって遺伝子の一部をやり取りする現象)が起こり、ビタミンB12を運搬できなかった細菌がビタミンB12を運搬する能力を持つ遺伝子を獲得していた。

マウスの腸内でも同様の現象が起こった。ビタミンB12を運搬するための遺伝子を持つ細菌とそうでない細菌をマウスに投与したところ、投与から5~9日後には前者の遺伝子が後者に転移していた。

接合による遺伝情報の共有が抗生物質耐性のみに限られない

研究チームは、ビタミンB12を運搬するための遺伝子を受け取った細菌の全ゲノム解析も行った。その結果、他の細菌から得た新しいDNAであることを示すエクストラバンドが組み込まれていた。

研究論文の責任著者でカリフォルニア大学リバーサイド校の微生物学者パトリック・デグナン准教授は、一連の研究成果について「細菌の接合による遺伝情報の共有が抗生物質耐性のみに限られないことを示すものだ」と評価するとともに、「このような細菌間での遺伝子の水平伝播は、生存能力を高めるあらゆる目的に用いられているのかもしれない」と考察している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国新疆から撤退を、米労働省高官が企業に呼びかけ 

ビジネス

米8紙、オープンAIとマイクロソフト提訴 著作権侵

ビジネス

米研究開発関連控除、国際課税ルールの適用外求め協議

ビジネス

AI用サーバーの米スーパー・マイクロ、四半期売上高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中