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サイエンス「腸内細菌が接合によって遺伝情報を共有し合っている」との研究結果
大腸菌が接合して遺伝情報をやり取りする Courtesy of Charles C. Brinton Jr. (NIH)
<細胞同士が接続して遺伝情報をやり取りする「接合」によって、腸内細菌がビタミンB12を吸収する能力を共有しあっている>
腸内細菌はビタミンB12を必要とし、これがなければほとんどの種類の細胞が機能しない。このほど、細胞同士が接続して遺伝情報をやり取りする「接合」によって、腸内細菌がビタミンB12を吸収する能力を共有しあっていることが明らかとなった。
大腸菌が「細菌の接合」によって遺伝情報を共有している
米国の分子生物学者ジョシュア・レーダーバーグ博士は、大腸菌が「細菌の接合」によって遺伝情報を共有していることを1946年に初めて示した。DNAを受け渡すための「性線毛」を細菌が形成し、これを他の細胞に付着させ、遺伝情報を届けることによって、遺伝子の水平伝播が起こる。このようなプロセスを通じて、抗生物質に対する耐性遺伝子が共有され、抗生物質耐性が広がると考えられてきた。
米カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは、2021年12月28日にオープンアクセス誌「セル・リポーツ」で研究論文を発表し、このような遺伝子の水平伝播は抗生物質耐性だけに限られないことを明らかにした。
研究チームは、腸内細菌のひとつ「バクテロイデス属」を用いて実験を行った。バクテロイデス属はヒトの大腸に常在し、サツマイモや豆、全粒穀物などの複雑な炭水化物を分解する働きを持つ。
実験室実験では、ビタミンB12を運搬できる細菌とそうでない細菌をペトリ皿に一緒に置いた。すると、ビタミンB12を運搬できる細菌が性線毛を形成して、接合伝達(細菌が接合によって遺伝子の一部をやり取りする現象)が起こり、ビタミンB12を運搬できなかった細菌がビタミンB12を運搬する能力を持つ遺伝子を獲得していた。
マウスの腸内でも同様の現象が起こった。ビタミンB12を運搬するための遺伝子を持つ細菌とそうでない細菌をマウスに投与したところ、投与から5~9日後には前者の遺伝子が後者に転移していた。
接合による遺伝情報の共有が抗生物質耐性のみに限られない
研究チームは、ビタミンB12を運搬するための遺伝子を受け取った細菌の全ゲノム解析も行った。その結果、他の細菌から得た新しいDNAであることを示すエクストラバンドが組み込まれていた。
研究論文の責任著者でカリフォルニア大学リバーサイド校の微生物学者パトリック・デグナン准教授は、一連の研究成果について「細菌の接合による遺伝情報の共有が抗生物質耐性のみに限られないことを示すものだ」と評価するとともに、「このような細菌間での遺伝子の水平伝播は、生存能力を高めるあらゆる目的に用いられているのかもしれない」と考察している。