最新記事

ウクライナ

したたかで不屈の男...ゼレンスキ―が「大国」から国を守るのは、実は今回が2度目

A FIGHTING CHANCE

2022年3月18日(金)17時18分
ジェレミー・スタール
ゼレンスキ―とトランプ

ゼレンスキー(左)はトランプ(右)の機嫌を取りつつ要求には屈しなかった(2019年9月) JONATHAN ERNSTーREUTERS

<プーチンの軍隊を相手にウクライナ国民を鼓舞し続けるウクライナ大統領は、かつてトランプが突きつけた不当な要求に屈しなかったしたたかな人物>

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア軍による侵攻に徹底抗戦の構えを貫き、国際社会を味方に付けている。

だが戦争が実際に始まる直前までは、彼に国を守る能力があるかどうかを疑う声が多かった。例えばウクライナのネットメディア「キエフ・インディペンデント」のオルガ・ルデンコ編集長は2月21日付のニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、元コメディアンのゼレンスキーは「自らの処理能力を超えた状況の中にいる」と指摘した。

しかしロシア軍が侵攻して間もなく、ルデンコをはじめ多くの人々がゼレンスキーへの評価を一変させた。ルデンコは侵攻翌日のツイッターに「彼は今まで多くのひどい失敗をしてきたが、今日は国の指導者にふさわしい姿を見せている」と投稿した。

ゼレンスキーに向けられていた批判(主として国内の腐敗を撲滅できないことへの批判)は、もっともなものだった。しかし彼が今回の事態に対処できることを予感させる出来事が、少なくとも1つあった。2019年にドナルド・トランプ米大統領(当時)に脅迫されるという事態を巧みに乗り切った一件だ。

トランプ陣営が突きつけた要求

ゼレンスキーが19年5月に大統領に就任した直後から、トランプの個人弁護士だったルディ・ジュリアーニは彼に圧力をかけ始めた。ジョー・バイデン(現米大統領)の次男ハンターとウクライナのガス会社に絡む疑惑について調査を行わせようとしたのだ。翌年の大統領選を前に、対抗馬となるバイデンに打撃を与えることが狙いだったとみられる。

さらにジュリアーニは、16年の米大統領選にロシアが介入した問題から目をそらさせる目的で、実は介入していたのはウクライナだったという説について調査を行うようゼレンスキーに迫った。19年7月22日の電話でジュリアーニは、ゼレンスキーの側近にこう語った。「大統領にやってほしいのは『信頼できる検察官を担当に付け、その検察官が捜査して証拠を掘り出す』と言ってもらうことだけだ」

ジュリアーニは、ゼレンスキーが一連の調査に着手するのは、アメリカとの関係が「はるかに良好なものになる」材料だとも語った。既にウクライナでは政府軍と親ロシア派の5年にわたる戦闘で、約1万3000人の犠牲者が出ていた。ゼレンスキーにとって、米大統領からの支持は何としても欲しかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、10月3.6%に鈍化 12月利下げ観測

ビジネス

インドネシア中銀、2会合連続金利据え置き ルピア安

ワールド

政府・日銀、高い緊張感もち「市場注視」 丁寧な対話

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中