最新記事

歴史

プーチンの異常なウクライナ「執着」の源...1000年に及ぶ歴史から完全解説

TRAPPED IN OLD MYTHS

2022年3月10日(木)21時06分
クリスタプス・アンドレイソンズ(ジャーナリスト、在ラトビア)

この視点はロシアの権力構造に有用だった。ロシアの総主教の支援を得て、君主による中央集権的な統治が実現し、モスクワが切望していた正統性も得られた。ロシアの統治者は、ビザンティン帝国皇帝の血を引く人間と結婚し、自分たちが帝国の継承と信じるものを正当化するため、さまざまな神話をつくり出した。

しかし、ちょっとした問題があった。ローマを支配していなければローマ皇帝とは呼ばれないように、ロシア全土を支配していなければロシア皇帝とは呼ばれない。キエフ大公国の文化的・歴史的・宗教的な重要性は、実に大きかった。だが西方の失われた領土を奪還し、一方では東方への拡大を目指すロシアの皇帝たちにとってそれは問題ではなかった。

ロシア帝国は、その文化的記憶から他の東スラブの言語を消し去ろうとした。ウクライナやベラルーシが一度も存在したことがないかのような姿勢を取ったのだ。

ロシア帝国によればウクライナ人は昔からロシア人であり、独自の歴史を持ったことがない。ウクライナ国家主義はロシアの建国神話にとって脅威であり、「全ロシア国民」をつくり出す彼らの試みにとっての脅威だった。

現代に入り、ソビエト連邦初期の理想主義者たちが違う考え方を取る。彼らはウクライナ、ベラルーシとロシアを「ソビエトの理想によって結び付いた別々の国」と考えていた。

しかしその理想主義はすぐに崩れ、ヨシフ・スターリンはウクライナつぶしに躍起になった。1932年から翌年にかけて起きたホロドモール(スターリンの政策が引き起こした人為的な大飢饉)では、何百万人ものウクライナ人が命を落とした。

学校でウクライナ語を教えることが禁止されたり、学校そのものが閉鎖されるなど、ウクライナ文化への弾圧が行われた。

ソ連が確立したい物語

スターリンの後継者となったニキータ・フルシチョフは自身もウクライナ人で、49年までウクライナ共産党の第1書記を務めていた。そのため彼は、ウクライナを徹底的に弾圧するよりも効果的な政策として、ソ連の政治体制により統合しつつ、いくらかの自治権を認めた。その一環として57年には、地域別の国民経済会議が設置された。

「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」は、ソ連の法律と矛盾しない範囲で、またソ連の各組織の指示の下であれば独自に法律を定める権利を得た。キエフはソ連内のごく普通の首都とされ、他のソ連構成国と比べて何ら特別な配慮や特権を与えられることはなかった。東スラブの歴史におけるキエフの特別な位置付けは、ないものとされた。ソ連が確立したい物語に合わなかったからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ・トロントの米国領事館に銃撃、首相「言語道断

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P反落、対イラン作戦の早期

ワールド

米、イスラエルにイランのエネ施設攻撃停止を要請=報

ビジネス

イラン巡るエネ価格急騰は一時的、米報道官 国民の懸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 6
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 10
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中