ウクライナの部品がないとロケットも作れず 「宇宙大国ロシア」はプーチンの幻想
だが、2020年に再び状況が変わる。米スペースX社が宇宙船で人を宇宙へ運ぶことに成功し、米国は独自の輸送手段を獲得した。ロシアのロケットと宇宙船も引き続き使われてはいるが、以後、宇宙でのロシアの力は再び弱まっていく。
「純国産ロケットと自前の宇宙基地」という幻想
プーチン大統領は、ロシアの宇宙開発がここまで弱体化したのは、国が崩壊しばらばらになったためだと考えるだろう。
現在のロシアの宇宙施設やロケットは、旧ソ連圏の国々や欧州などとの微妙な力関係の上に成り立っている。バイコヌール宇宙基地は、カザフスタンにあり、ロシアはカザフスタンに借料を払わねばならない。
ロシアのロケットは、ウクライナ製の部品やシステムなどの外国技術に依存したり、他国との合弁事業だったりするなど、ロシアだけでは自由にできない状況が長く続いてきた。
ロシア製部品への切り替えなどの対策を講じてきたが、旧ソ連圏をロシア中心でまとめ直そうとしているプーチン大統領にとって、ロシアの技術だけの純国産ロケットを作り、ロシアが自由に使える宇宙基地から打ち上げることが悲願になっている。
このため、新ロケット「アンガラ」の開発や、新たな宇宙基地の建設を進めたが、どちらもまだ本格的な活用までは至っていない。新基地建設をめぐっては大規模汚職が問題になるなど、負の側面も目立った。
宇宙でも「欧米vs中ロ」という分断が起きる
このままいけば、ロシアの宇宙開発は国際社会から締め出される可能性がある。17日に欧州宇宙機関(ESA)が、ロシアと共同で今年打ち上げる予定だった火星探査機の計画を中断すると発表したように、すでにその兆しが見えている。
ISSに滞在する米国の飛行士が、今月末にロシアの宇宙船で地球に帰還する予定になっており、その動向が注目されていたが、NASAは14日、予定通りに進める、と発表。とりあえず最悪の事態は免れた。
国際社会から締め出さされた時、ロシアは中国との連携を深めるだろう。
中国の王毅外相は7日、「中国は停戦に向けた仲介で協力できる」と表明し、ロシアと中国の友情は堅固であるとも強調した。
今、米国が主導して国際協力で月面に有人基地を造る「アルテミス」計画が進められている。だが、ロシアはこれに参加せず、中国と月面基地の建設で協力する政府間合意を1年前に交わし、計画を進めている。一方、中国は独自の宇宙ステーションを建設中で、今年完成する予定だ。ここにロシアが加わることも考えられる。
世界の宇宙開発は二極に分断される恐れがある。双方が目指す月までは、広い宇宙空間が広がる。国際ルールや規範を顧みない中国とロシアがこの広大な宇宙空間でどのようにふるまうか、リスクが高まっている。
知野恵子(ちの・けいこ)
ジャーナリスト
東京大学文学部心理学科卒業後、読売新聞入社。婦人部(現・生活部)、政治部、経済部、科学部、解説部の各部記者、解説部次長、編集委員を務めた。約35年にわたり、宇宙開発、科学技術、ICTなどを取材・執筆している。1990年代末のパソコンブームを受けて読売新聞が発刊したパソコン雑誌「YOMIURI PC」の初代編集長も務めた。