最新記事

宇宙

ついに初めて金星の表面が可視光線で見えた

2022年2月16日(水)11時00分
松岡由希子

広視野カメラWISPRで撮影された画像(左)と、金星探査機マゼランなどのレーダー観測レーダー観測データに基づいて作成された画像(右) NASA/APL/NRL/Magellan Team/JPL/USGS

<金星の表面は厚い濃硫酸の雲で覆われ、外から観測することは難しい。太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が、可視光線で撮影していたことが発表された......>

アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は、たびたび金星をフライバイ(接近通過)し、金星の重力を用いて速度や軌道を調整している。

2020年7月11日の3回目のフライバイと2021年2月20日の4回目のフライバイの際、「パーカー・ソーラー・プローブ」に搭載されている広視野カメラ「WISPR」が金星の表面を宇宙から可視光線で撮影していたことが明らかとなった。その研究成果は、2022年2月9日、「ジオフィジカル・リサーチ・レターズ」で発表されている。

金星の表面は厚い濃硫酸の雲で覆われ、外から観測することは難しい

金星の表面は厚い濃硫酸の雲で覆われ、外から観測することは難しい。研究論文の筆頭著者でアメリカ海軍調査研究所(NRL)の物理学者ブライアン・ウッド博士は「金星は空で3番目に明るい天体だが、厚い大気によって視界が遮られるため、その表面がどのようになっているのか、最近までよくわかっていなかった」とし、「ついに初めて金星の表面が宇宙から可視光線で見えるようになった」とその意義を強調している。

「WISPR」は太陽大気や太陽風のわずかな特徴をとらえるために設計されている。そこで研究チームは、「『パーカー・ソーラー・プローブ』が金星を通過する際、『WISPR』を用いて金星を覆う雲頂を撮影できるのではないか」と考え、雲の速度の測定を目指して研究をすすめた。

2020年7月11日、「パーカー・ソーラー・プローブ」の3回目のフライバイの際、初めて「WISPR」が金星の夜側を撮影した。画像では、金星の雲だけでなく、金星の表面もとらえられている。「WISPR」が撮影した金星の表面からの熱放射は、金星探査機「あかつき」が近赤外線波長で撮影したものとよく似ていた。

夜側でかすかな輝きを「WISPR」がとらえた

2021年2月20日の4回目のフライバイでは、金星の夜側が全体的に撮影されている。

venus-wispr-magellan.gifWISPRで撮影された画像(左)と、金星探査機マゼランなどのレーダー観測データに基づいて地形の特徴を際立たせるために色などを加工された画像(右) NASA/APL/NRL/Magellan Team/JPL/USGS


NASA's New Views of Venus' Surface From Space


金星の表面からの可視光線の大半は雲に遮られるが、近赤外線に近く、非常に長い可視光線の波長は通過する。金星の昼側では雲頂に反射する太陽光でこの赤い光は見えなくなるが、夜側で表面からの熱放射によって生じるかすかな輝きを「WISPR」がとらえた。金星の表面は高温で、夜側でも華氏735度(摂氏約462度)と推定されている。

「WISPR」が撮影した画像では、金星で最大の大陸「アフロディーテ大陸」や「アイノ平原」など、金星の表面の特徴も示されている。「アフロディーテ大陸」のような高地の温度は低地よりも華氏約85度(摂氏約29.4度)低いため、明るい低地の間に暗い高地が斑点として現れる。

5回目と6回目のフライバイでは「WISPR」が金星の夜側を撮影することはできないとみられ、2024年11月に予定されている7回目のフライバイが金星の表面を「パーカー・ソーラー・プローブ」から撮影する最後の機会となりそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中