最新記事

感染症対策

コロナ飲み薬モルヌピラビル、米国では「最後の選択肢」に

2022年2月7日(月)11時32分
米メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」

米メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」は一時期、コロナ治療を一変させると期待された。しかし米国の関係者らによると、今では入手可能な治療法4種類の中で「最後の選択肢」と位置付けられるようになっている。写真はモルヌピラビルのカプセル。メルクが2021年10月提供(2022年 ロイター)

米メルクが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」は一時期、コロナ治療を一変させると期待された。しかし米国の関係者らによると、今では入手可能な治療法4種類の中で「最後の選択肢」と位置付けられるようになっている。有効性の低さと、安全面での潜在的なリスクがその理由だ。

米国で最も需要が大きいのは米ファイザーの飲み薬「パクスロビド」で、2番人気は英グラクソスミスクラインの中和抗体点滴薬「ソトロビマブ」。

両者は供給がひっ迫しているため、オミクロン変異株による感染者急増に直面している医師らは米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」を利用する場合もある。レムデシビルは、リスクの高い新型コロナ患者の入院を防ぐためには1日に3回投与する必要がある。

メルクと共同開発企業リッジバック・バイオセラピューティクスは昨年遅く、モルヌピラビルが入院のリスクを半減させるとの初期データを発表。家庭で使える最初の薬として、新型コロナ治療に風穴を空けると期待された。

しかし完全なデータで有効性が30%程度にとどまることが分かると熱気はやや冷め、パクスロビドが入院リスクを90%下げることが示されると、さらに期待はしぼんだ。ソトロビマブとレムデシビルは入院リスクをそれぞれ85%と87%下げることが示されている。

米保健福祉省のデータによると、米国ではこれまでにパクスロビドが26万5000コース分、モルヌピラビルが110万コース分配布されている。初期データでは、全国の薬局や病院の棚には数十万コース分のモルヌピラビルが眠っている。

ロサンゼルス南部と中部の公衆衛生センター網、セント・ジョンズ・ウェル・チャイルド・アンド・ファミリー・センターのジム・マンジャ所長は「メルクの製品(モルヌピラビル)は有効性が30%しかないので使っていない」と語る。連邦政府から受け取ったモルヌピラビル200コース分を貯蔵し、パクスロビドの新規供給を政府に要請しているという。

ロイターは6カ国以上で12を超える医師、医療システム、薬局に取材。大半はモルヌピラビルについて、より有効な選択肢が使えなかったり入手できなかったりする場合を中心に、限定的にしか処方していないと説明した。

米国の医師の間でモルヌピラビルが最後の選択肢と位置づけられていることについてメルクに聞いたところ、実臨床データと臨床試験データが増えるにつれて、需要は高まるだろうと回答。同社の世界医療問題責任者、エリアブ・バール氏は「今後数週間、数カ月間に、人々に必要な情報を提供するための教育が大いに必要になる」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中