最新記事

世界経済

過度のナショナリズムは「経済回復」の足を引っ張る...それは歴史からも明らかだ

THE COST OF CLOSED MINDS

2022年2月2日(水)10時42分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
米白人至上主義団体の行進

ワシントンで行われた白人至上主義団体の行進(昨年12月) WIN MCNAMEE/GETTY IMAGES

<新型コロナからの経済回復の途上にある世界経済だが、成長の度合いは国ごとに大きくばらつく。その主な原因の1つは攻撃的ナショナリズムだ>

暗いムードが広がるさなかでの新年の幕開けだった。新型コロナウイルスのパンデミックが再燃し、世界経済は低迷中。さらに東欧や中東、アメリカでさえも、政治的対立が高まる兆しが見えている。

オミクロン株がパンデミックの最後のあがきになりそうな気配はあるが、コロナ危機が残した経済的・政治的問題をめぐる厄介な問いは消えない。

世界銀行は1月11日、年2回発表する「世界経済見通し」報告書の最新版を公表した。それによると、世界経済成長率は昨年の5.5%から、今年は4.1%に減速する。

債務負担が増大し、サプライチェーンの問題が物品・サービスの流れを妨げインフレ率が上昇するなか、各国は追加の財政支援を行う力を失っている。「債務返済が困難な状態に陥るリスクが高い」国が複数あると、世銀は警告する。

さらに、昨年後半に急騰したエネルギー価格がさらに跳ね上がり、その上昇率は世銀の半年前の見通しを上回るという。

報告書の統計表に盛り込まれた情報の中で、特に興味深いのは主要経済国の最近のGDP成長率と今後2年間の成長予測だ。

昨年、主要経済国のうちで実質GDP成長率がトップクラスだったのはアルゼンチン(10%)、トルコ(9.5%)、インド(8.3%)だ。ただし、危機の後の成長率は注意深く解釈する必要がある。

昨年の成長の大部分は、パンデミックによる2020年の景気減速の深度を反映したものにすぎない。アルゼンチンの20年の成長率は前年比9.9%減で、インドは7.3%減。メキシコと並び、主要経済国中で最低水準だった。

長期的に見て経済に大損害をもたらす

新興国・途上国は通常、比較対象となる基数がより低いこともあって、先進国より成長率が高い。だが世銀の報告書によれば、23年末までの新興国・途上国の経済見通しは先進国を下回る。追加支援を行う政策余地が限られ、より大きな「ハードランディング」リスクに直面しているからだ。

経済回復がばらつく主な理由の1つは、経済よりも政治に絡む。近年、先進国のアメリカでも新興国のブラジルでも、攻撃的なナショナリズムへの支持が急速に拡大している。この事実が、経済パフォーマンスの在り方を決定する上で、大きな役割を果たしているのは間違いない。

極度のナショナリズムは多くの場合、長期的に見て経済に大損害をもたらす。

顕著な例がアルゼンチンだ。20世紀に入ってしばらくは世界で最も急速に成長し、アメリカを追い越すとの見方がもっぱらだった。変化が起きたのは1930年。軍事クーデターによって、ウルトラナショナリスト政権が発足したときだ。開放的だった経済は世界に扉を閉ざし、すぐに停滞してアメリカに大差をつけられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中