最新記事

ウクライナ危機

ウクライナ危機に新たな可能性、ロシア軍はベラルーシから侵攻する?

Belarus and the Ukraine Crisis

2022年1月24日(月)14時30分
ユージン・ショーソビスキー(ロシア・中東問題アナリスト)

1月にカザフスタンで起きた暴動に介入したロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)は理論上、ロシアが加盟国ベラルーシのデモ鎮圧にも当たれるが、下手をすればデモがさらに過熱し、ルカシェンコばかりかロシアのウラジーミル・プーチン大統領まで大やけどしかねない。

このようにルカシェンコには、ロシア軍にすんなり協力できない事情がある。

それでも、2月の合同演習以降もロシア軍がウクライナににらみを利かす形でベラルーシに居座る可能性は排除できない。

いくつかの理由から、ロシア軍のベラルーシ駐留はロシアとベラルーシ双方にとって、望ましい選択肢となるからだ。

ベラルーシは自国がNATOとその息のかかった国々に包囲されていることをひしひしと実感している。ルカシェンコは1月17日に行った演説でバルト諸国とポーランドが3万人超の兵員を自国との国境付近に配備し、さらにウクライナも国境沿いに兵力を集結させていると訴えた。

周辺国の兵力増強は、ルカシェンコにとって自国におけるロシア軍のプレゼンスを正当化する格好の口実になる。

過度の警戒はいらない

一方ロシアにすれば、自国には友好的で欧米から嫌われているベラルーシなら安心して軍隊を派遣し、地域の軍事大国としての面目を施せる。

ベラルーシへの軍隊派遣は、ロシアの他国への軍事介入の条件を全て満たしている。

その条件とは、派兵を正当化できる口実があること、派兵先の国が協力的であること、自国の兵士が血を流す危険性が少ないこと、技術的に可能なこと、政治・経済的コストが比較的低いことだ。しかもロシアは、ベラルーシに駐留する自国軍を中・東欧における欧米との軍事的な綱引きでテコとして利用できる。

だからと言って、ロシアのウクライナ侵攻の可能性も、ベラルーシがそれに手を貸す可能性もゼロとは限らない。

ロシアはウクライナなど周辺国のNATO加盟を躍起になって食い止めようとしてきた。また、カザフスタンでCSTOの作戦が奏功したことで、ロシアとベラルーシが強気になっている可能性は否定できない。

ロシアは何らかの形で欧米のウクライナへのテコ入れに対抗する必要性を感じているはずだ。

ロシアとNATO、そしてこの2つの勢力が綱引きを繰り広げる中・東欧諸国がこぞって軍備を拡大すれば、意図の読み違えや偶発的な衝突のリスクは大幅に高まる。

そうであっても、ロシアもベラルーシも、ウクライナ侵攻が高い代償をもたらすことは百も承知しているはずだ。

欧米の制裁で経済が壊滅的な打撃を受け、外交的に孤立するばかりか、中・東欧におけるNATO拡大に拍車を掛ける結果ともなりかねない。さらに国内でどんな反発が起こるかは予想もつかない。

こう見てくるとロシア軍がベラルーシに居座っても、ウクライナと欧米は過度に警戒する必要はなさそうだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中