最新記事

ウクライナ侵攻

【ウクライナ侵攻軍事シナリオ】ロシア軍の破壊的ミサイルがキエフ上空も圧倒し、西側は手も足も出ない

‘They’re So Destructive’: Russian Missiles Could Dominate Ukraine’s Skies

2022年1月21日(金)17時56分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者・米国防総省担当)

ロシアがウクライナに対して使う可能性のあるイスカンダルなどの武器には、歴史的なルーツがある。第2次世界大戦前、ソ連(当時)の軍司令官たちは「縦深攻撃」という戦闘スタイルを計画していた。装甲部隊を敵の後方にも送り、敵を包囲する戦術だ。

この戦術は東部戦線で、カチューシャ・ロケットを使って現実となった。そして冷戦期間中に技術が急速に進歩したことで戦術はさらに進化を遂げ、ソ連軍は精密誘導兵器と超小型回路を組み合わせ、ベルリンの壁から離れたところで、NATO部隊に精密爆撃を行う計画を立案した。

しかし1990年代までにはアメリカが、崩壊しつつあったソ連を自分たちの得意分野で打ち負かすことに成功した。第一次湾岸戦争の際おん「砂漠の嵐」作戦の中で、アメリカは空からの精密爆撃と、自走式多連装ロケット発射システムを使い、サダム・フセイン率いるイラクの戦車部隊を、ものの数日で排除した。

米国防総省の当局者たちによれば、ロシアが精密誘導兵器で大きな進歩を遂げ始めたのは、2000年代前半になってから。ウラジーミル・プーチン大統領と西側諸国の関係が悪化し始めた後のことだ(イスカンデルは2006年に導入され、2012年に改良された)。米軍の中には、これはロシアによく見られるパターンだとする見方もある。訓練不足を補うために、より大きな兵器を用いたがるというパターンだ。

米軍より優れた長距離ミサイル

空からの精密爆撃を得意とするNATOとは対照的に、ロシアは地上部隊がより奥深くまで進軍することができるように、イスカンデルのような可動式のミサイル発射システムを支援に使う。軍の近代化のために、ロシアが2010年代半ばに行った集中的な取り組みも、軍の進化を助けた。米国防総省は、ロシアが実施した2度の大規模軍事演習――ロシアの南側での紛争を想定したカフカス2012とカフカス2016――に注目した。米軍の複数の元将校は、ロシアの長距離ミサイルは、アメリカが所有するものよりも優れていると考えている。

かつて米軍の欧州軍司令官を務めたベン・ホッジス退役中将は、「長距離ミサイルは常に、ロシアの戦闘の要となる兵器だ」と指摘しする。「ロシア国内から、あるいはアゾフ海上の艦船からでも発射が可能だすると、かなり有利に立つことができる。ウクライナ国境からずっと奥にある指揮本部や交通の要所などの標的を攻撃することができるというのは、大きな強みだ」

ロシア軍は現在、2027年に完了予定の新たな近代化計画を進めているところだ(経済状況の悪化やウクライナ侵攻が長期化した場合の追加支出により、頓挫する可能性もあるが)。アメリカからの深刻な脅威に対抗するための、精密爆撃能力の強化や、地上部隊の改革などに資金を投じる内容だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中