最新記事

宇宙

4000光年先の天体から「不気味な」電波、18分ごとに地球に届く

2022年1月31日(月)12時52分
青葉やまと

非常に遅い回転速度が鍵か

独特なサイクルには、天体の回転速度が関係している可能性があるようだ。通常のマグネターは秒単位で高速回転するが、今回の天体はかなり遅い周期で回転しているものとみられる。結果として約18秒という長い周期を生んでいる可能性があるという。

このようなマグネターは「超長周期マグネター」と呼ばれ、理論上はその存在が予測されてきた。しかし、地球から観測可能なほど強力な電波を出すことはないと考えられており、天文学者たちがその存在を確かめることは実質的に不可能だというのが従来の考え方であった。

研究チームにとって幸運だったのは、この天体がかなり強い強度の電波を放出している点だ。電波の放出中は観測中の天球のなかでも最も「明るい」天体になるほどであり、容易に捕捉することができたという。

ウォーカー博士は「何らかの原因で、これまで私たちが観測してきたどんなものよりも効率的に、磁気エネルギーを電波に変換しているのです」と説明している。非常に高い効率で天体の磁場から強力な電波を生成しているため、検出可能な強度の電波が地球に達することとなった。

さらに、天体が地球のすぐ近くに位置していたことも観測上有利に働いたようだ。ウォーカー博士はこの天体が約4000光年の距離にあり、これは「私たちの銀河系内のすぐご近所」だと表現している。

大学生が発見

ICRARのウォーカー博士たちが観測したこの天体は、もともとは豪カーティン大学の学生が発見したものだった。2018年の3月と5月に撮影された天の川の画像を比較していた学生のタイロン・オドハティ氏が、片方の写真にのみ存在する天体に気づいたことがきっかけだ。

同大の博士課程に進んだオドハティ氏は、「このような発見に至ったのは本当に現実のこととは思えません」「昨年私が特定した発信源がこんなにも奇妙な物体だったとは、とても興奮しています」と、思わぬ成果に胸を躍らせている。

その後、オドハティ氏の発見を引き継ぐ形で、ICRARのウォーカー博士たちが詳細な分析を進めた。チームは、オーストラリア西部に設置された低周波電波望遠鏡「マーチソン・ワイドフィールド・アレイ(MWA)」によって過去に収集された、膨大な観測データを解析した。結果、2018年の1月に天体からの放射が始まり、3月までに断続的に71回の放射が確認され、その後は沈黙していることが判明した。

博士は、「今回のような電波放射が可能だとは、私たちは予想だにしませんでした。この(現象の)存在は、何らかの極端な物理的プロセスが起きていることを示すものです」と述べている。

問題の天体はマグネターであるとみられる一方で、まったく別の物理現象である可能性も残されている。研究チームは異例の活動周期の謎に迫るべく、電波の放射再開を待って観測を続ける。同時に、MWA望遠鏡の観測アーカイブを参照し、似たような超長周期のマグネターがないかを探索する方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツの歳出拡大、景気回復の布石に=IMF

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し

ワールド

ウクライナ南東部ザポリージャで19人負傷、ロシアが

ワールド

韓国前首相に懲役15年求刑、非常戒厳ほう助で 1月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中