最新記事

中国

【鼎談】新型コロナ流行から2年、パンデミックは中国人を変えた──のか

2022年1月11日(火)14時23分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

高口:もちろん、デジタル技術やビッグデータも活用されましたが、それはSF的ディストピアというよりも、きわめて実直な行政DX(デジタル・トランスフォーメーション)でした。

新型コロナウイルス流行初期に、中国で話題になった「スマートシティの幻想が崩壊した」というコラムがあります。ビッグデータで一人一人の行動を把握するスマートシティ建設が進められているという触れ込みだったのに、「*月*日の高速鉄道の*号車に感染者が乗っていました。この車両に乗っていた方はすぐに連絡してください」という公式サイトや新聞に通達が乗っているのが現実。全然、監視国家になってないじゃんというツッコミです。

しかし、そこからの巻き返しがすごかった。それまではバラバラだったデータを連携させて、この人物はハイリスク地域に踏み入れていない、感染者と同じ場所にいなかったということを確認できるシステムを突貫工事で作成します。このシステムは健康コードとして、今も中国の感染対策の根幹を支えています。

高須:新型コロナウイルスの流行から2年ですが、システムはどんどん更新されていって、PCR検査の履歴やワクチン接種の有無も統合されるようになりました。また、別の自治体に旅行した時に、当初はその自治体のシステム用に名前やパスポート番号の登録といった手間が必要だったのですが、データ受け渡しの仕組みが整備されたのか、そういう面倒が減っていきます。中国ITについては近年日本でも注目されていますが、行政用システムの進化ってあまり触れられていないトピックですよね。そういうところを踏まえている点も面白かったです。

高口:それもめちゃめちゃ面白いですね。

山形:一利用者として見ているかぎりでは、「なんか便利なツールが出てきた」といった感想で終わってしまうのですが、俯瞰してみると、コロナ対策には大量動員が必要であり、動員を続けるためにはデジタル化による省人化が必要というニーズに応えてのものだったという内容でした。

中国が専制主義だからこうしたデジタルソリューションをすんなり導入できるという側面はもちろんありますが、一方で動員の支援や省人化というニーズは日本とも共通している部分も多く、日本にも必要なもの、日本だって取り入れるべきものも多々あるわけです。

なんで日本ではうまく導入できないのかという不満を感じるとともに、一方でこういうやり方を参考にすれば日本のコロナ対策ももっとうまくいくのではと希望を感じさせる内容でもありました。

【参考記事】コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

高須:その意味で、中国のやり方で尊敬できると感じるのは、最後まで「**をすれば大丈夫」と言わない点です。日本での議論を見ていて感じるのは、みんな、答えがわからないことに弱いということ。「こうすれば大丈夫」という根拠のない断言が人気を集めていますし、「この対策しかない」と言い出す人は他の対策は全部ダメだと切って捨てている。

そうじゃなくて、正解はわからないけど、手探りで対策をしつつブラッシュアップさせていくのが中国のやり方です。場当たり主義を積み重ねて、うまくいっている。そういうやり方があることはちゃんと知っておくべきでしょうし、世の中はそもそも首尾一貫していないのだという前提が共有されるべきだと思います。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中