最新記事

軍事衝突

台湾危機の「T-DAY」は間近い? 6つの有事シナリオ

2021年12月1日(水)17時53分

シナリオ6:全面侵攻

【状況】

習氏と軍首脳は、タイムリミットが近づいていると確信していた。

中国の武漢市から広がった新型コロナウイルスのパンデミック以降、中国の世界的な地位は朝鮮戦争以来最悪の状況にあった。同国の好戦的な「戦狼外交」および「グレーゾーン」戦略は、米国や海外諸国による台湾への支持をさらに固いものにした。中国指導部は、台湾を武力によって統一できる見込みがわずかながらあると考えた。米国はアジアでの軍事力と同盟を強化しており、台湾は防衛力強化を急いでいた。

習氏と軍首脳は、離島の占拠や台湾本島の封鎖、空爆・ミサイル作戦などの限定的な策を検討はしたものの、選択肢から排除した。これらの案は世界的な経済危機を招き、米国による全面的な侵攻につながりかねないからだ。そして台湾が降伏するという保証はなかった。

習氏らは最大かつ最も複雑な上陸作戦を決断した。人民解放軍の目標は、米国とその同盟国が反応してくる前に台湾を制圧することにあった。

【展開】

人民解放軍が突如、台湾全土の主要な軍事・民間施設をターゲットとして大規模な空襲、ミサイル、そしてサイバー攻撃を仕掛けた。同軍は同時に、在日米軍基地と米領グアムにある米軍基地に対して空爆とミサイル攻撃を行い、米軍をまひさせて介入までの時間稼ぎを図った。

これらの攻撃と並行して、人民解放軍の揚陸艦や上陸用舟艇、そして中国の巨大な海運力を総動員した民間船からなる大規模艦隊が、台湾から最短で130キロほど離れた複数の港から出発。船には数十万人規模の人民解放軍兵士と重装備が積まれていた。

海上の上陸部隊が台湾に接近する中、人民解放軍の輸送機やヘリコプターで運ばれた空挺部隊が降下し、飛行場や港、政府施設や司令部などの重要な目標を占領。空からの上陸作戦には政治指導部や軍指導者の拘束もしくは殺害の任務を負った特殊部隊が含まれていた。中国は物理的な軍事作戦だけでなく、台湾のネットや通信網にサイバー攻撃や偽情報作戦などを展開し、心理戦を仕掛けた。

目標の海岸に地雷や障害物がないことを確認した後、上陸部隊が海岸から内陸へ前進。特殊部隊が主要な港を掌握し、戦闘中に発生した損傷などを修理しながら、後から来る商船や民間のRORO船(貨物専用フェリー)が入港するための準備を行った。

【反応】

本島が最初のミサイル攻撃や空爆を受けると、台湾の政治指導部と軍指導者らはただちに地下に準備した堅牢な指令センターに急行した。台湾政府は米国およびその同盟国に緊急支援を要請。軍を総動員し、予備役兵も召集した。上陸地点と予想される海岸線に防衛体制を敷いた。

台湾軍は第一波の攻撃をまぬがれた発射台などから、中国軍の艦隊と本土の港に向かって長距離ミサイルを発射した。山間部のシェルターから台湾軍の戦闘機が離陸し、接近する侵攻軍と軍用機を攻撃した。

アジアに配備した米軍基地などの拠点が攻撃を受ける中、米軍は同盟国の日本の自衛隊とオーストラリア軍と合流し、人民解放軍への反撃を開始した。日米の潜水艦が台湾海峡へ向かい、人民解放軍の艦艇を攻撃。米軍は爆撃機とステルス戦闘機で人民解放軍の海空戦力を攻撃する一方、複数の空母打撃群をアジアへ派遣した。

【結果】

数時間のうちに、大規模な戦争が東アジアで勃発した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国の不動産バブルは弾けるか? 恒大集団の破綻が経済戦略の転換点に
・中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告
・武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実験を計画していた



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中